日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] アストロバイオロジー

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 201A (2F)

コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(国立天文台)、藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)、座長:深川 美里(名古屋大学大学院 理学研究科)、藤島 皓介(ELSI 地球生命研究所)

16:40 〜 16:55

[MIS07-05] 模擬海底熱水系環境下でのアミノ酸前駆体からのペプチド生成

*小林 憲正1内藤 敬介1内藤 弘毅1倉本 想士1今井 栄一2三田 肇3癸生川 陽子1 (1.横浜国立大学、2.長岡技術科学大学、3.福岡工業大学)

キーワード:海底熱水系、化学進化、アミノ酸前駆体、ペプチド、急熱急冷

 海底熱水噴出孔は、加熱と急冷のサイクル、還元的環境、触媒となりうる遷移金属元素の存在といった有機化合物の合成に有利な特長を持っているため、化学進化の場の一つとして注目されている。また模擬星間物質に陽子線を照射した際には、アミノ酸前駆体が含まれる混合有機物が得られることが判明している。これらのことから、星間にて生成したアミノ酸前駆体が隕石や彗星などにより原始地球の海底熱水噴出孔へ至り、反応するという段階が生命誕生までにあった可能性が考えられる。本研究では、海底熱水噴出孔の高温高圧と急冷を模擬したフローリアクター[1]を用いてグリシン(Gly)、その前駆体となるヒダントイン(Hyd)、アミノアセトニトリル(AAN)、模擬星間有機物(CAW)を反応させ、その生成物の分析を行った。

実験:Gly40 mM、Hyd 40 mM、AAN 40 mM、CAW(CO、NH3、H2Oの混合気体に陽子線を照射して得られた生成物)各0.25 mLをフローリアクター(FR)に注入し、反応させた。温度は室温または200~400℃、圧力は250 kg cm-2、反応時間は2分とし、キャリア溶液には純水または1 mM塩酸を用いた。注入5分後から13分後までの流出液を回収しイオンペアクロマトグラフィーを用いた分析を行った。また、Gly, HydそれぞれをCAWと混合したサンプルについても同様の実験を行い、単独で反応させた場合と結果を比較した。

結果・考察:Gly、Hydを加熱したサンプルからはGlyの二量体であるグリシルグリシン(GlyGly)及びジケトピペラジン(DKP)が検出された。DKP, GlyGlyともにHydを反応させたサンプルについて収量は大きくなり、HydはGlyの重合物の生成においては遊離のGlyに比べ良い出発物質となることが分かった。また、この際の収量は、DKPについては200℃、250℃、GlyGlyについては200℃、どちらも純水中で反応させた場合に最大となった。

GlyとCAWを混合し反応させたサンプルについては、200℃で加熱した場合に純水中、酸中ともにGlyGly, DKPともに収量は増加した。一方、HydとCAWを混合し反応させたサンプルについては、200℃にて酸性中で反応させた場合のみGlyGlyの収量の増加が見られた。同条件でのDKPの収量に関しては、純水中酸性中ともに増加し、酸性中で反応させた場合に特に大きく増加した。

以上の結果より、遊離のGlyに比べ、アミノ酸前駆代であるHydが海底熱水噴出孔におけるペプチド生成に有利であるということ、また星間環境中で生成する複雑有機物が、ある条件においてはペプチド生成を触媒し得るということが示唆された。

[1] Md. N. Islam et al. Bull. Chem. Soc. Jpn., 76, 1171 (2003).