日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] ジオパーク

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

[MIS08-P02] 「濁澄橋」が示す意味の再検討~白山手取川ジオパーク,牛首川・尾添川合流点の濁度特性~

*青木 賢人1 (1.金沢大学地域創造学類)

キーワード:白山手取川ジオパーク、濁度、ダム

白山手取川ジオパークを貫流する手取川水系をなす主要な流路として,白山西側の旧白峰村を源流とする幹線流路である牛首川と,北側の旧小口村を源流とする支流の尾添川がある.この二つの流路は旧小口村瀬戸地区の「濁澄橋」付近で合流し,手取川となって北流する.「濁澄」の語が意味するものは,二つの流路の濁度の違いである.白山手取川ジオパークのホームページには以下のように記され,濁度の高い水と低い水が合流している様子が写った写真が添えられている.



名前の由来は、手取川と尾添川の合流部にあり、荒天時には尾添川の濁りが久しく澄まないことからこの名前が付けられたと伝えられている。現在も同じく合流点では、清流と濁流の2色のコントラストを見ることができる。



今回の報告では,この二つの流路の濁度について計測を行い,人為的な河川管理との関係を整理した上で,「濁澄」の語が持つ今日的な意味を再検討した.

牛首川は白山御前峰(2702m),尾添川は白山大汝峰(2684m)を源流とし,濁澄橋付近の標高240mで合流する.地理院地図上で計測すると,合流点までの流路長は牛首川が34.3km(平均河床勾配71.8‰),尾添川が24.5km(同107.9‰)であり,尾添川の方が急勾配である.流域にはいずれも崩壊地・地滑りが多く分布している.ただし,尾添川源流域の地獄谷には古白山の火道があったと考えられており(長岡,1972),激しい変質が認められる.牛首川の流路には手取川ダムが建設されており,その流量はダムによってコントロールされている.一方,尾添川にはいくつかの砂防堰堤は建設されているがダムがなく,流量はコントロールされていない.

牛首川流域のダム上流側,手取ダム湖,およびその直下,尾添川,濁澄橋下流の合計5か所において台風による大規模出水の直後に採水を行い,濁度の変化を記録した.合わせて,国土交通省による水位観測データを合わせて分析を行った.その結果,大規模出水の直後には,流量がコントロールされておらず急峻で流域の地質がもろい尾添川において,流量・濁度とも高くなる一方で,ダムでコントロールされる牛首川ではダム内に水と細粒物質が貯留されることによって流量も濁度も上昇が抑制されている.濁澄橋付近においては,尾添川が「濁」で牛首川が「澄」の構造が生じる.一方,出水から時間が経過すると,尾添川では急激に流量が基底流量に近づき,濁度も低下していくのに対し,ダムからの放流が継続的に行われた牛首川では,流量が高く保たれるとともにダム内の濁り水が排水されることによって濁度も比較的高く保たれる状況が生じる.その結果,牛首川が「濁」で尾添川が「澄」の状況が生じた(ただし,尾添川の流量が非常に少なくなるため,景観的にははっきりとしなくなる).

濁澄橋は,「水の旅・石の旅」をキーコンセプトとする白山手取川ジオパークにおいて,河川による土砂運搬を理解するための主要なジオサイトの一つとして位置づけられている.今後は,人為的な河川環境への関与との関係性も含めた,河川と人との関係性をより深く考えることができるジオサイトとして再定義することが可能となろう.