日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 最新の大気科学:ダスト

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 102 (1F)

コンビーナ:石塚 正秀(香川大学)、黒崎 泰典(鳥取大学乾燥地研究センター)、関山 剛(気象庁気象研究所)、長島 佳菜(海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター)、座長:関山 剛

14:15 〜 14:30

[MIS09-02] イラン7都市の降水中に含まれる不溶性物質の鉱物組成と元素組成の地域的特徴

*横尾 頼子1阪本 千尋1北村 篤志1安間 了2Mehrabani Shiva3 (1.同志社大学理工学部、2.徳島大学、3.Kurdistan University)

キーワード:不溶性物質、元素組成、鉱物組成、西アジア

大気降下物は大気を浮遊して直接沈着する乾性降下物と,雨に取り込まれて降水と共に降下する湿性降下物に分けられる.大気降下物は海塩や土壌のような自然由来の物質と人間活動による汚染物質を含む.本研究ではイランの降水中の不溶性物質(以下,ダスト)の鉱物組成と元素組成を調べ,その地域的特徴を明らかにした.
調査地はイラン西部の4都市(Ilam, Ahvaz, Hamedan, Shiraz)とイラン東部の3都市(Mashhad, Birjand, Zahedan)である.西部では2014年10月から2015年7月まで,東部では2016年1月から2017年1月まで1か月毎に採取した降水を,降雨のない月は漏斗とタンクを500 mℓ超純水で洗浄して回収した.試料は孔径0.2 μmメンブレンフィルターを用いて現地でろ過した.フィルターの重量を電子天秤で測定し,ダスト重量を求めた.メンブレンフィルターを超純水で洗浄してダストを分取した.乾燥させたダストをめのう乳鉢で粉砕しX線回折装置を用いて,鉱物組成分析を行った. 混酸でダストを溶かし,ICP質量分析計で元素濃度を分析した.
東部は西部と比べ,どの月でもダスト量が多かった.特にMashhadとZahedan の6~8月の乾季とBirjandの試料でダスト量が多い.イラン東部にはカヴィール砂漠やルート砂漠が広がっており,それらの砂塵がダストに含まれたと考えられる.
石英と長石のピークが全てで検出され,西部では多くの試料に方解石が含まれていたが,東部では方解石のピークが検出されない試料が多かった.西部におけるダストのCa, NaおよびK濃度はそれぞれ0.45~29.33%,0.24~0.82%,0.49~1.94%であるのに比べて,東部のダストの方が,Ca濃度は0.97~6.23%と低く,NaとK濃度は0.59~2.74%,0.88~3.15%と高かった.方解石が多く含まれていた西部のダストとBirjandのダストにおいて,Ca濃度が高いことから,ダスト中のCaは方解石に由来する.西部では乾季のダストは雨季より方解石に富み,この方解石は西部に分布する石灰岩地帯や乾燥地に,東部では砂漠に由来すると考えられる.東部のMashhadとZahedanでは方解石がほとんど含まれないが,Ca濃度が高いダストが見られた.西部に比べてNaとK濃度が高く,長石を含むことから,Caの一部は長石に由来すると考えられる.
濃縮係数([X試料/Al試料]/[X地殻/Al地殻],X:任意の元素)は,西部ではCd, Sb, Pb, As,東部ではNi, Zn, As, Cd, Sbの最大値が10以上であった.濃縮係数が10以上であると,人間活動が影響していると考えられる.Asは石油やガソリンの燃焼,Pbは精錬活動で排出され,これらは西部で値が大きいので,西部では石油産業の大気への影響が大きく,東部では小さいと考えられる.