[M-IS09] 最新の大気科学：ダスト

[MIS09-04] 気象庁エアロゾルモデル(MASINGAR)を用いた越境大気汚染物質による健康影響予測

*大西 一成¹、関山 剛²、黒崎 泰典³、篠田 雅人⁴ (1.聖路加国際大学公衆衛生大学院／臨床研究支援ユニット、2.気象庁気象研究所、3.鳥取大学乾燥地研究センター、4.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード：大気汚染、健康予報、エアロゾル予報

【背景】近年、越境大気汚染物質による健康影響について関心が高まっており、エアロゾル飛来予測のデータが公表されるなど、利用可能な情報が整備されつつある。しかしながら、飛来予測データと健康影響との関連についてはこれまで報告がない 。
【目的】気象庁のエアロゾル飛来予測 データと住民 の自覚症状との関連を調べ、健康への短期的影響を予測する指標としての有用性を検討した。
【方法】越境大気汚染の飛来時期である2011年の秋（10月〜11月）に鳥取県の住民に対して実施した自記式日記式の自覚症状調査の結果からアレルギー様 症状のスコアを得た。予測データは、気象庁のMASINGAR(Model of Aerosol Species in the Global Atmosphere) で、越境由来成分の地表濃度を計算した。さらに、大気浮遊粒子状物質の観測値としてSPM濃度およびLIDAR の球形物質の消散係数を用いた。性別、年齢、気温、湿度、気圧を調整し、一般化推定方程式を用いて解析を行った。調査期間中に、29人の参加者から1670件の回答を得た。
【結果】我々は、硫酸エアロゾルにおける予測モデル値と呼吸器症状において有意な相関を得た(r = 0.545, p < 0.01)。四分位に分けた硫酸エアロゾル濃度が高い時[Q4]は、一番低い時[Q1]に対する呼吸器症状のオッズ比が5.31（95%CI：2.18 - 12.96）となり、有意なリスクの上昇を示した。ダスト濃度が高い時、[Q4]は、一番低い時[Q1]に対する呼吸器症状のオッズ比が3.32（95%CI：0.90 - 12.27）とリスク上昇を示したが有意ではなかった。また、予測した硫酸エアロゾル濃度と観測値であるSPM濃度とLIDARの消散係数は中等度の相関となっており、今後の精度向上が期待される(r = 0.542, 0.457, いずれもp < 0.01)。
【考察】11月秋は、春に次いで第2の黄砂シーズンではあるが、調査時期には大規模な黄砂は見られなかったため、ダストと症状との関係は綺麗に出なかったと推測する。一方で、予測された越境大気汚染濃度と実際の自覚症状との関係が示唆され、医学と気象学の融合の有用性を示した。
【結論】本研究において、越境大気汚染物質の短期曝露が呼吸器症状を引き起こす日を予測できる可能性が示唆された。健康予報としてMASINGARのデータを応用できる可能性がある。