日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 結晶成長、溶解における界面・ナノ現象

2019年5月28日(火) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、佐藤 久夫(三菱マテリアル株式会社エネルギー事業センター那珂エネルギー開発研究所)、塚本 勝男(大阪大学大学院工学研究科)、座長:佐藤 久夫

11:45 〜 12:00

[MIS10-10] Birth-and-spread成長機構におけるヒステリシス

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

キーワード:結晶成長、ステップ・ダイナミクス、不純物効果、フェーズ・フィールド法

結晶成長において不純物が引き起こす現象のひとつに,成長ヒステリシスが挙げられる。結晶化駆動力(過飽和度や過冷却度)を増加させるときの成長速度が,駆動力を減少させるときと異なって観察される現象である。これは,結晶表面への不純物の「遅い吸着」が原因だと考えられている。成長表面には原子スケールのステップが存在し,そこに原子や分子が取り込まれることによってステップが前進し,一層一層成長する(層成長機構)。結晶表面に不純物が付着すると,ステップ前進を妨げることで結晶成長を阻害する。だが,ステップ前進速度が大きい場合,結晶表面が頻繁に更新されることで吸着不純物が排除され,吸着不純物量が少なくなるのである。不純物の吸着タイムスケールと,結晶表面が更新される間隔(テラス露出時間),このふたつのタイムスケールの競合により,成長ヒステリシスが引き起こされる。

成長ヒステリシスが現れるメカニズムは,平均場理論によって説明された。Punin and Artamonova [1]とMiura and Tsukamoto [2]は,不純物がステップ前進を阻害する効果(pinning効果)と,逆にステップ前進が吸着不純物を排除する効果(impurity sweeping)を定式化し,両者を満足する定常解がある過飽和度範囲において複数存在することを明らかにした。その後,フェーズフィールド法に基づいた数値計算により,ステップ間隔が一定の場合について,各物理量の平均値からの揺らぎを考慮した場合においても平均場理論が予想したとおりにヒステリシスが現れることが確認された[3]。結晶面がらせん成長する場合についても同様の数値計算が実施され,ヒステリシスの出現が確認された[4]。しかし,表面に露出したらせん転位がステップを供給するらせん成長機構に対して,もうひとつの代表的なステップ供給機構である二次元核形成による面成長(birth-and-spread成長機構)については調べられていなかった。Birth-and-spread成長機構は高過飽和度において支配的となる成長機構であり,それに対する不純物効果を明らかにしておくことは重要である。そこで,本研究では,birth-and-spread成長機構におけるヒステリシスについて理論的に検討した。

まず,らせん成長機構のときと同様に,平均場理論に基づいてステップ前進速度と吸着不純物量との相互依存関係を定式化した。その結果,ある過飽和度範囲において複数の定常解が存在することを見出した。これは,原理的には成長ヒステリシスが現れうることを示している。続いて,平均場理論で用いた計算条件と同等の条件にてフェーズフィールド法による数値計算を実施した。過飽和度の変化速度の大きさを固定して増減を繰り返したところ,過飽和度減少時と増加時の面成長速度が異なった履歴を辿ることを確認した。また,ヒステリシスが出現する過飽和度範囲は過飽和度の変化速度に依存し,過飽和度をゆっくり変化させるとヒステリシスが検出されにくくなることがわかった。



参考文献:
[1] Y. O. Punin and O. I. Artamonova, Kristallographiya 32, 1262 (1989). [2] H. Miura and K. Tsukamoto, Cryst. Growth Des. 13, 3588 (2013). [3] H. Miura, Cryst. Growth Des. 16, 2033 (2016). [4] 三浦均,日本地球惑星科学連合2017年大会予稿MIS11-P04.