日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 水惑星学

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、臼井 寛裕渋谷 岳造(海洋研究開発機構)

13:45 〜 14:00

[MIS11-01] 冥王星の不思議を解く内部構造モデル

*鎌田 俊一1Nimmo Francis2関根 康人3倉本 圭1野口 直樹4木村 淳5谷 篤史6 (1.北海道大学、2.カリフォルニア大学サンタクルーズ校、3.東京工業大学、4.徳島大学、5.大阪大学、6.神戸大学)

キーワード:冥王星、内部海、ガスハイドレート

水惑星の形成条件の知る上で、内部海の保持メカニズム解明は欠かせない。近年の惑星探査により、外側太陽系の天体のいくつかは内部海を持つことが示唆されている。その多くは巨大惑星の氷衛星であり、潮汐による加熱が内部海の維持に重要な働きをしていると考えられる。内部海の存在は太陽系外縁に位置する冥王星においても示唆されているが、潮汐加熱は効かない。熱源に乏しい冥王星が今も内部海を保持するためには、その上にある氷地殻が熱対流しないことが必要であり、氷地殻は高粘性率であると見積もられる。同様の結論は氷地殻の粘性緩和の観点からも支持されている。その原因として、内部海がアンモニアなどの不純物を大量に含み、凝固点が非常に低いためということが指摘されてきたが、冥王星表面ではアンモニアはほとんど観測されない上、冥王星と同様の組成を持つと考えられる彗星もアンモニアをほとんど含まない。したがって、冥王星の内部海が凍り付いていない理由は謎に包まれている。

 我々は、冥王星の氷地殻と内部海の間にガスハイドレートの薄い層が存在し、内部海の凍結を阻害しているという仮説を提案する。ガスハイドレートは熱伝導率が低いため、断熱材の働きをする。我々は長期熱進化計算を行い、暖かい内部海と冷たい氷地殻が長期に渡って維持され、内部海の凍結はほとんど起こらないことを示す。また我々は長期粘弾性変形計算も行い、氷地殻がほとんど粘性緩和しなくなることも示す。この仮説は内部海に多量の不純物を必要としない。彗星は水に対して数%程度のメタンなどを含むが、これだけで内部海保持に必要なガスハイドレートが十分に生成可能である。ガスハイドレートは生成時に一部のガス種を選択的に取り込む性質があり、これは冥王星表層の揮発性物質と彗星に含まれるそれが大きく異なる組成を持つことも説明しうる。今回提唱する内部海保持メカニズムは、冥王星に限らず比較的大型の氷天体に対しては有効であろう。またカイパーベルト天体表層の組成多様性をも説明するかもしれない。