09:30 〜 09:45
[MIS11-15] 初期火星ゲイルクレータ周辺の地下水循環と水-岩石反応の復元
キーワード:火星、熱水実験、水循環モデル
火星では、過去に液体の水が表層付近に存在した地質的・地球化学的証拠が数多く得られてきた。一方、初期火星の気候や水の存在量の観測事実に基づく復元は難しい。火星探査車キュリオシティは、ゲイルクレータ内に残された約38~35億年前の湖底堆積物の鉱物・化学組成のその場分析を可能としており(e.g. Grotzinger et al. 2015, Rampe et al. 2017)、これを解釈することは水・物質循環を介して記録された堆積当時の気候や環境の理解に繋がると期待される。例えば、堆積岩中にマグネタイトやヘマタイトといった鉄酸化物やシリカに富む層準が存在することが明らかになった(Hurowitz et al. 2017)。これらの鉄酸化物やシリカは、鉄イオンや溶存シリカに富む地下水あるいは地下熱水がクレータ内に湧昇し、溶存成分が沈殿することで形成した可能性も考えられる。しかしながら、火星の地下水圏を含めた水循環を扱う研究は乏しく、地下水湧昇をもたらすための気候や水量の条件は明らかとなっていない。また、火星の地下水の化学的性質、特にシリカや二価鉄の溶存濃度の支配要因は制約されていない。
そこで本研究では、3次元水循環モデルを火星に初めて適用し、地下水が湧昇する条件を制約した。また、火星模擬岩石を用いた室内実験に基づき、地下水の溶存組成を推定した。得られた結果に基づき、地下水湧昇によるシリカや二価鉄の供給フラックスを制約し、堆積記録が意味する気候や水量、ハビタビリティを議論した。
水循環モデリングでは、表層流及び地下水流を統合した3次元流体シミュレーションが可能である”GETFLOWS”を用いた。重力可変機構を施すことで初めて火星に応用し、ゲイルクレータ古湖周辺の水循環を再現した。その結果、湖の分布や地下水流動は、蒸発量の大小に従う2つのモードとして表されることを発見した。蒸発量が多い条件では、地下水湧昇がおこることでゲイルより標高の高い周囲でも湖が散見されるモードとなる。一方、蒸発量が少ない条件では、領域内で最も標高が低い地点にのみ湖が形成されるモードとなる。地質記録に残されたゲイルクレータ内の閉鎖湖及び周囲の湖の存在は、前者のモードで良く説明される。そのため、本研究の結果は、(半)乾燥気候と浅い地下水頭分布を支持する。このような乾燥気候では、地下水湧昇が引き起こされ、当時の地温勾配から、この地下水は周囲の地殻との熱水-岩石反応を経たと推定される。
次に模擬岩石を用いた熱水-岩石反応実験を火星地下の温度圧力条件で行い、シリカや鉄の溶存濃度の支配要因を制約した。模擬岩石は着陸探査から示唆されたゲイルクレータ周辺の地殻組成に基づいて合成し、熱水実験はディクソン型熱水装置を用いて行った。200℃での熱水反応を経て生成した二次鉱物として、アナルサイム、クォーツ、アルバイト、サーペンティン、サポナイト、炭酸塩が検出された。熱水流体中の溶存シリカ濃度(1–10 mM)はクォーツの溶解平衡に従うこと、また鉄濃度(~10-3 mM)は炭酸塩(シデライト)の溶解平衡に従うことが示唆された。
以上の水循環モデルと熱水実験の結果を組み合わせて、SiO2やFe2+が地下水湧昇に伴いゲイルクレータに供給されるフラックスを推定した。シリカの供給は堆積速度で1火星年あたり~0.02–0.2 mmに相当し、湖底堆積物中に観られるラミナ(Grotzinger et al. 2015)が年縞である可能性を示唆した。この場合、温暖な堆積環境が~105 年もの間維持されたことを意味する。また、地下水湧昇が供給する鉄から、酸化鉄が析出し、水素が大気に供給されたかもしれない。本結果は、ゲイルをはじめとする赤道域の深いクレータが、熱水-岩石反応を経た地下水が湧昇し、水と物質を地表へ供給する場所として、初期火星環境において重要な場であった可能性を示唆した。
そこで本研究では、3次元水循環モデルを火星に初めて適用し、地下水が湧昇する条件を制約した。また、火星模擬岩石を用いた室内実験に基づき、地下水の溶存組成を推定した。得られた結果に基づき、地下水湧昇によるシリカや二価鉄の供給フラックスを制約し、堆積記録が意味する気候や水量、ハビタビリティを議論した。
水循環モデリングでは、表層流及び地下水流を統合した3次元流体シミュレーションが可能である”GETFLOWS”を用いた。重力可変機構を施すことで初めて火星に応用し、ゲイルクレータ古湖周辺の水循環を再現した。その結果、湖の分布や地下水流動は、蒸発量の大小に従う2つのモードとして表されることを発見した。蒸発量が多い条件では、地下水湧昇がおこることでゲイルより標高の高い周囲でも湖が散見されるモードとなる。一方、蒸発量が少ない条件では、領域内で最も標高が低い地点にのみ湖が形成されるモードとなる。地質記録に残されたゲイルクレータ内の閉鎖湖及び周囲の湖の存在は、前者のモードで良く説明される。そのため、本研究の結果は、(半)乾燥気候と浅い地下水頭分布を支持する。このような乾燥気候では、地下水湧昇が引き起こされ、当時の地温勾配から、この地下水は周囲の地殻との熱水-岩石反応を経たと推定される。
次に模擬岩石を用いた熱水-岩石反応実験を火星地下の温度圧力条件で行い、シリカや鉄の溶存濃度の支配要因を制約した。模擬岩石は着陸探査から示唆されたゲイルクレータ周辺の地殻組成に基づいて合成し、熱水実験はディクソン型熱水装置を用いて行った。200℃での熱水反応を経て生成した二次鉱物として、アナルサイム、クォーツ、アルバイト、サーペンティン、サポナイト、炭酸塩が検出された。熱水流体中の溶存シリカ濃度(1–10 mM)はクォーツの溶解平衡に従うこと、また鉄濃度(~10-3 mM)は炭酸塩(シデライト)の溶解平衡に従うことが示唆された。
以上の水循環モデルと熱水実験の結果を組み合わせて、SiO2やFe2+が地下水湧昇に伴いゲイルクレータに供給されるフラックスを推定した。シリカの供給は堆積速度で1火星年あたり~0.02–0.2 mmに相当し、湖底堆積物中に観られるラミナ(Grotzinger et al. 2015)が年縞である可能性を示唆した。この場合、温暖な堆積環境が~105 年もの間維持されたことを意味する。また、地下水湧昇が供給する鉄から、酸化鉄が析出し、水素が大気に供給されたかもしれない。本結果は、ゲイルをはじめとする赤道域の深いクレータが、熱水-岩石反応を経た地下水が湧昇し、水と物質を地表へ供給する場所として、初期火星環境において重要な場であった可能性を示唆した。