日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 水惑星学

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、臼井 寛裕

10:00 〜 10:15

[MIS11-17] 海惑星気候の太陽定数依存性の研究: 灰色大気の吸収係数が大きい場合における海洋熱輸送の影響

*河合 佑太1,2高橋 芳幸1石渡 正樹5中島 健介3竹広 真一4樫村 博基1,6西澤 誠也2富田 浩文2林 祥介1,6 (1.神戸大学、2.理化学研究所計算科学研究センター、3.九州大学、4.京都大学、5.北海道大学、6.惑星科学研究センター)

キーワード:海惑星、気候の太陽定数依存性、大気海洋海氷結合モデル

1. イントロダクション
水が存在する惑星で実現される気候の多様性や安定性を明らかにするために, 我々の研究グループでは理想化した惑星の気候を数値的に探索してきた. Ishiwatari et al. (2007) (以後, INTH07 と書く)では, 3 次元大気大循環モデルを用いて沼惑星における気候の太陽定数依存性を調べた. このとき, 海洋熱輸送は考慮しなかった. 海洋熱輸送も気候に寄与し得るため, 例えば Rose (2015) (以後, R15 と書く)は大気海洋海氷結合モデルを駆使して全球が海で覆われた惑星(海惑星)の気候を調べている. R15 の得た結果は, 気候の安定性に対する海洋熱輸送の重要性を示している. 我々も最近, INTH07 の研究の発展として, 大気海洋海氷結合モデルによる海惑星気候の太陽定数増減実験を行った. 海洋大循環を表現すると大気場に明瞭な変化が生じたが, 氷線の変位は小さく, 気候レジーム図(太陽定数と氷線緯度の関係図)はあまり変化しなかった. この理由として, INTH07 の灰色大気設定では太陽定数に対する温度変化が, R15 の設定と比べて小さいことが関係する可能性が考えられた. そのため, 灰色大気の吸収係数を大きくした場合の海惑星気候の太陽定数増減実験を実施した. 本発表ではその初期的結果を示す.

2. モデルと実験設定
使用するモデルは, 我々が構築した大気海洋海氷結合モデルである. 大気モデルは DCPAM であり, 3 次元プリミティブ方程式系が解かれる. 大部分の大気設定は INTH07 と同じであるが, 灰色大気放射スキーム(Nakajima et al., 1992)における水蒸気と非凝結成分に対する吸収係数をそれぞれ 1x10-1, 1x10-5 [m2/kg] とする. 海洋海氷モデルは, 東西平均した 2 次元モデルある. 海洋モデルでは静力学ブジネスク方程式系が解かれ, メソ渦や対流による混合はパラメタリゼーションで表現する. 海氷モデルは鉛直 1 次元熱力学モデルであり, 水平拡散により輸送を表現する. 表面アルベドの表面温度依存性は, 263 K 以下で 0.5, それ以上で 0 とし, 格子内の温度分布を考慮して与える. 海洋熱輸送の効果を評価するために, 上記の結合モデルによる実験(dynamic ocean 実験)に加え, 海洋混合層の熱容量のみを考慮する海洋モデルに変更した実験(slab ocean 実験)も行う. 大気モデルの解像度は 64x32x16 (T21L16) に設定する. 海洋モデルの解像度は南北 64 点・鉛直 60 層, 海氷モデルの解像度は南北 64 点である. 初期値は基本的に 280 K 等温の静止した大気海洋であるが, 部分凍結解等を初期値にした実験も行う. 時間積分は slab ocean 実験で約 300 年間, dynamic ocean 実験では結合モデルによるランと海洋海氷モデル単体によるランを交互に繰り返す方法で約 3 万年間実施する.

3. 結果
水蒸気の吸収係数を大きくした結果, 気候レジーム図の特徴は大きく変化した. 始めに dynamic ocean 実験の結果を記述する. 部分凍結解が得られる太陽定数は, 約 1040 W/m2 から1055 W/m2 となった. INTH07 の大気設定よりも部分凍結解が得られる太陽定数は全体的に 300 W/m2 小さくなり, その範囲はかなり狭まった. さらに, 初期に280 K の等温大気を与えた場合には, S=1070 W/m2 で暴走温室状態に至ることも確認された. 大氷冠不安定が生じる緯度範囲は INTH07 の大気設定に比べて広い. 緯度 40 度よりも低い部分凍結解は見つかりにくいが, 初期条件や太陽定数の与え方を工夫した特定の条件では, 30 度付近に氷線を長期間維持する解が見つかる. R15 と類似した, 部分凍結解のブランチの分断が起きている可能性もあり, その存在を慎重に検証する必要がある. slab ocean 実験では部分凍結解は存在できず, dynamic ocean 実験で得られた部分凍結解は海洋熱輸送によって安定に維持されていることが想像される. ただし, 今回の実験設定は R15 と同程度に太陽定数に伴う温度変化が大きく, 部分凍結解が存在できるパラメータ範囲が潜在的にかなり狭い. そのため, 結果はモデルの解像度や定式化の影響を受けやすい. 今後の課題として, 吸収係数を少し振った実験によって, 今回得られた結果の蓋然性を調べる必要があるだろう.