日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2019年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:関 宰(北海道大学低温科学研究所)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、植村 立(琉球大学 理学部)、真壁 竜介(国立極地研究所)、座長:加藤 悠爾(高知大学)

09:40 〜 09:55

[MIS14-03] 過去72万年間の気候変動情報を含むアイスコアの物理と層位および「最古の氷」の研究

*藤田 秀二1,2平林 幹啓1飯塚 芳徳3大野 浩4 (1.大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所、2.総合研究大学院大学(SOKENDAI)極域科学専攻、3.北海道大学低温科学研究所、4.北見工業大学)

キーワード:南極、氷床、アイスコア、気候変動、年代、古気候

本発表は、標記題名の進行中の研究課題や今後の取り組みへの展望を示すことを目的とする。

【研究の背景・目的】
 南極内陸のアイスコアは、約150万年規模の気候変動史の重要な情報源である。気候変動のシグナルを含有している氷は、深いほど年代が古くなり、氷床の流動によって鉛直に圧縮変形し、さらには、地熱の影響を受けてシグナルには種々の経時変質が起こる。気候変動の信号を非常に古い氷まで高時間分解能で解読できれば、急激な気候変動の歴史を読み解き、その知識は温暖化する地球上での人類の生存戦略につながる。しかし、現状のアイスコア解析は基本的に離散的な分析に基づき、連続高分解能解析技術は近年端緒についたばかりである。本研究では、結晶物理と連続融解を手法とする最先端の連続高分解能解析手法群を用い、約20万年前から72万年前に遡る非常に古いアイスコアの層位を高時間分解能で解読する。この長大なアイスコアの分析に基づき、①古気候シグナルとしての情報価値創出に加え、②経時変質の性質と素性を明らかにし、③複数のコア間の精緻な年代同期や比較解析を実現する。更には、④将来に掘削する150万年規模のアイスコアのもつ情報の質の予測を可能にする。

【研究の方法】
 南極大陸の「ドームふじ」(図1参照)で国立極地研究所を中心とした日本のアイスコア研究コミュニティが採取をした、過去約72万年間の気候変動史の情報を含むアイスコアのうち、特に約20万年前から72万年前に遡る非常に古い部位の詳細解析を実施する。こうした年代部位は、約3000メートルの長さをもつアイスコアの、最も深い約1000メートル区間に、年層が縦に圧縮した状態で存在する。本研究は、南極各地で掘削される全深層アイスコア、特にドームふじとドームC(図1参照)に共通な年代軸を与えうるか、それに、急激な気候変動の動態を、古い時代に向かいどこまで解読可能かを問う。
問いに挑むアクションとして、層序を読み取る2つの手法を用いる。まず、最も深い約1000メートル区間深度帯の層毎の圧縮変形履歴や、分子拡散の物理履歴を読む。「ミリ波共振器」と呼ばれる手法を用い、結晶集合組織の層構造の連続解析を、約20mm分解能で実施する。さらに、氷のなかで拡散しにくい物質の層序を読み取る。ケイ素、ナトリウム、カルシウムの連続解析を、「連続融解解析システム」と呼ぶ手法を用いて実施する。測定分解能は約10mmとなる。

【期待される成果と意義】
上に述べた主に2つの高分解能連続解析から、相当する連続高分解能のアイスコアデータを生成する。これは、発展的な問いに対する検討材料となる。こうしたデータを用いて、ドームふじコアとドームCコアの年代同期を実施し、年代が精密に対応する深度を同定する。それをもとにして、ドームふじコアとドームCコア間のアイスコアシグナルの年代差を抽出する。これにより達成てきることは、将来にわたる多くの深層コアに共通な精密年代軸を世界で初めて達成できることである。さらには、地球規模の熱循環モードの72万年の変化の有無を明らかにする。さらには、非常に古い氷の層構造の存在状態を予測する。アイスコアの、急激な気候変動に関する古気候アーカイブしての情報価値と信頼性と限界を明らかにする。