日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:関 宰(北海道大学低温科学研究所)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、植村 立(琉球大学 理学部)、真壁 竜介(国立極地研究所)、座長:石輪 健樹(国立極地研究所)

13:45 〜 14:00

[MIS14-12] 鉛直拡散係数の成層依存性を考慮した海洋大循環モデルによる氷期海洋炭素循環シミュレーション

*小林 英貴1岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海洋炭素循環、氷期/間氷期サイクル、海洋子午面循環、炭酸塩補償

約 2 万年前の最終氷期最盛期は、間氷期と比較すると、大気中二酸化炭素濃度が 100 ppm 近く低かった。その主要因は、海洋の炭素貯蔵量の変化であると認識されているが、メカニズムの詳細は未解明である。最終氷期最盛期に関して、プロキシデータを用いた古海洋復元から、間氷期に比べて高塩で古い海水が南大洋深層を占めていた可能性が提示されている。成層が強まることで海水の鉛直混合が弱くなると、海洋深層への炭素貯蔵が増加し、氷期の大気中二酸化炭素濃度の低下に貢献すると考えられる。一方で、そのような水塊特性は、過去に行われた海洋大循環モデルを用いた数値的研究では十分に再現されていない。これは、先行研究が氷期の大気中二酸化炭素濃度を再現できていない要因の一つと考えられる。そこで、海洋大循環モデルによる数値実験で、氷期の南大洋における水塊特性を再現した上で、それが海洋炭素循環の変化を介して大気中二酸化炭素濃度に及ぼす影響を評価することを試みる。先行研究の Kobayashi et al. [2015; 2018] における氷期実験では、海氷生産の増加に伴う深層水形成の増加と、それに伴う深層の高塩化を模して、南大洋の深層で高塩分への緩和を行い、さらに水柱全体で理想的に小さい鉛直拡散係数を与えることで、氷期の南大洋における成層の強化に伴う鉛直混合の弱化を表現した。そのような海洋物理場の下で、炭酸塩補償を含む海洋炭素循環の変化により、氷期-間氷期間の大気中二酸化炭素濃度の約 100 ppm の変化のうち 73 ppm を説明していた。本発表では、前述の塩分緩和に加えて、Oka and Niwa [2013] で提示された、鉛直拡散係数の成層依存性を考慮できるパラメタ化を新たに導入した。鉛直拡散係数の成層依存性を考慮することで、データと数値実験との差がどの程度埋まるのかを議論することが、本発表の目的である。全球海洋で鉛直拡散係数の成層依存性を考慮すると、氷期実験において海洋全体で塩分による成層が中層から深層にかけて強まり、鉛直拡散係数が減少することが確認された。その結果、海水のベンチレーション年齢が、現代実験に比べて中層から深層にかけて古くなった。これは生物過程や深層大循環を経て深層に輸送されてきた炭素の滞留時間を増加させるため、溶存無機炭素の鉛直勾配は増加し、プロキシデータから示唆されるように、大気中二酸化炭素濃度が低下させる方向にはたらく。これに加えて、Kobayashi et al. [2018] で示したように、海底堆積物と海洋炭素循環との相互作用である炭酸塩補償による数万年の時間スケールをもつ応答が、海洋内部の炭素循環の変化を増幅させる方向にはたらくと予想される。発表では、海洋大循環モデルを用いた数値実験において、炭酸塩補償も含めた海洋炭素循環の応答により、氷期における大気中二酸化炭素濃度がどの程度説明されるのかについて報告する予定である。