日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 火山噴煙・積乱雲のモデリングと観測

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:佐藤 英一(気象研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)

[MIS16-P05] 浅間山天明噴火降下軽石最大粒径の遠方への追跡: mmスケールの降下軽石の等最大粒径線を関東平野で描く試み

*竹内 晋吾1上澤 真平1 (1.一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

キーワード:降下火山灰、降下軽石最大粒径、浅間山天明噴火

降灰は火山の遠方にまで到達し、たとえ少量でも人間社会に様々な影響を及ぼす可能性がある。例えば、厚さ1 mmの降灰堆積物によって、建物屋根などには約1 kg/m2の荷重がかかる。その影響は降灰の粒径にも依存し、より細粒な降灰粒子ほど吸気されやすく、空冷機器や人体への影響が大きくなる。火山から遠方の地域において表土上に堆積するcmスケール以下の層厚の薄い降灰堆積物は、堆積後の土壌化過程での物質移動(例えば生物擾乱)により地層としては残りにくいが、降灰粒子は土壌中に保存されている可能性がある。そのような遠方での降灰粒子特性を明らかにすることは、実績に基づく降灰影響の評価だけでなく、遠方に及ぶ噴煙・火山灰拡散に関わるモデルを検証するための”地質学的観測データ”としても重要である。そこで本研究では火山から遠方の地域での降灰堆積物について、土壌中の粒子の分析により降下軽石を認定し、遠方での降灰粒子特性を得ることを試みた。比較的最近の関東地方での降灰の一例として、1783年の浅間山天明噴火の降下軽石を対象に、降灰域全体(群馬県・栃木県・茨城県・埼玉県・千葉県・東京都)に渡る調査を行い、mmスケールの降下軽石の等最大粒径線を描く試みについて報告する。

竹内・上澤(2018, JpGU)では、浅間山から南東に伸びる天明噴火降灰の降下主軸にほぼ沿う地域で調査を行い、浅間山からの距離と軽石最大粒径の関係を明らかにし、Minakami (1942)の最大粒径データと調和的に遠方でのデータがつながることを示した。また、埼玉県吉見町、千葉県我孫子市、成田市で採集された軽石粒子の石基ガラス組成を測定し、浅間山近傍で得られる天明噴火軽石の石基ガラスとの一致を確認した。本論では、同様の調査を降下主軸から離れた関東平野全体に展開した。

調査地点選定にあたっては、空撮画像・古地図を利用し、天明噴火以降の表土の削剥や耕作による客土の可能性を可能な限り排除した。地表下15 cm程度の森林の林床土壌を採集し、水洗と過酸化水素水により処理した後に篩い分けを行い、土壌粒子の観察を行った。顕微鏡あるいはフラットベットスキャナーで粒子を撮影し、画像解析により新鮮な黄白色軽石粒子を抽出し、それらの形状を楕円近似した場合の最大長軸を計測し、粒径とした。上位5位までの軽石粒径の平均をとることにより、その地点での最大軽石粒径とした。

現時点での暫定結果として、降下軽石について最小1 mmまでの等最大粒径線を関東平野内で描ける見通しを得た。1 mmの等最大粒径線は埼玉県秩父市から、日高市、川越市を通り、千葉県流山市、印西市をつなぐ曲線として描くことができる。その先は茨城県内に入ると予想されるが現時点では未確定である。茨城県下妻市や坂東市で1.4 mmのデータを得ており、それよりも東方の地域での調査を今後進める予定である。

なお、本研究では浅間山天仁噴火(1108年)の降下軽石の特徴の把握も行った。群馬県南部および栃木県南部では、天明噴火の降灰域が浅間山から東方に主軸を持つ天仁噴火の降灰域と重なり、土壌からは天仁噴火起源と考えられる軽石粒子も出現する。従って、軽石粒子の判別が必要となる。天明噴火の降下主軸に沿う群馬県南西部での降下軽石層の観察では、天仁噴火に比べ天明噴火の軽石の最大粒径が大きい。従って天明噴火の降下主軸から南側の範囲では、天仁噴火軽石の混入の影響は埼玉県北部でも軽微と考えることができる。一方、群馬県南部から栃木県南部に渡る地域では、天仁と天明噴火の軽石最大粒径が同程度、あるいは天仁噴火の方が大きい場合がある。降下軽石層の観察では天明噴火軽石は黄白色、天仁噴火は褐色軽石に富む特徴がある。色調の違いは石基ガラス組成、石基結晶化組織、発泡組織の違いに起因すると考えられるため、今後は、これらの特徴の違いを基にして、浅間山天仁噴火と天明噴火軽石の判別の精度を高める予定である。