日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 304 (3F)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)、座長:岡崎 裕典

11:00 〜 11:15

[MIS19-02] 白亜紀の海洋無酸素イベントにおける基礎生産者の挙動

*芳賀 万由子1田近 英一1尾崎 和海2 (1.東京大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.東邦大学理学部生命圏環境科学科)

キーワード:海洋無酸素イベント、白亜紀、バイオマーカー、海洋生物化学循環モデル、緑色硫黄細菌、シアノバクテリア

白亜紀においては、海洋内部に酸素欠乏状態が拡大する「海洋無酸素イベント(Oceanic Anoxic Events ; OAEs)」と呼ばれる現象が繰り返し生じていたことが知られている。OAEs時の貧酸素環境では、現在のような富酸素環境とは異なる物質循環や生物活動、堆積過程が生じていたはずである。実際、OAEsの地層からはシアノバクテリアや緑色硫黄細菌等の活動を示唆するバイオマーカー(分子化石)が検出されていることから、OAEs発生時における海洋の化学環境や基礎生産者が現在とは全く異なっていたことが示唆されている。OAEsを生物地球化学循環への擾乱現象と見なせば、そこで中心的な機能を担う光合成生態系の応答を理解することは重要である。

白亜紀においては、海洋底拡大速度が速く海水準が高く維持されていたため、浅海域の面積が拡大していた。有機物は浅い海底ほど効率的に埋没するため、広大な大陸棚において必須元素であるリンや窒素などの栄養素が大量に固定される結果、海洋は富栄養になりにくく、より富酸素的になりやすいはずである(Ozaki and Tajika,2013)。しかしながら、そのような白亜紀条件における海洋内部の必須元素分布や基礎生産者の挙動はよくわかっていない。そこで白亜紀条件における海洋生物化学循環モデルに海洋生態系モデルを結合することで、白亜紀において生じたOAEsの条件や必須元素分布、基礎生産者の挙動について調べた。

その結果、白亜紀の平均的な気温条件では、現在海洋と同様に藻類が主な基礎生産者となることがわかった。しかしながら、巨大火成岩区(LIPs)の形成などにより一時的に気温が上昇し貧酸素水塊が発生した場合、海水中の硝酸が枯渇して窒素制限傾向に陥るために藻類の基礎生産は低下し、それに代わって窒素固定を担うシアノバクテリアが主たる基礎生産者となることが示された。また、湧昇域においては、硫酸還元によって発生した硫化水素が有光層にまで上昇し、緑色硫黄細菌が基礎生産を担うようになることが分かった(有光層ユーキシニアの発生)。

すなわち、白亜紀において海洋無酸素イベントが発生した状況では、通常海域ではシアノバクテリアが必然的に活動するようになり、湧昇域においては緑色硫黄細菌が活動するようになるという結果が得られた。