日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 304 (3F)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)、座長:岡 顕

15:30 〜 15:52

[MIS19-12] 湖底堆積物の花粉化石から高精度14C年代を抽出する

★招待講演

*大森 貴之1山田 圭太郎2北場 育子2中川 毅2 (1.東京大学総合研究博物館、2.立命館大学古気候学研究センター)

キーワード:放射性炭素年代、花粉化石、セルソーター、水月湖

堆積物に含まれる花粉化石の高精度放射性炭素(14C)年代測定の実現は,古気候復元の時間解像度を飛躍的に向上させ,古気候学における研究戦略さえも大きく変革させるポテンシャルを秘めている。様々な堆積物で認められる花粉化石を短時間でかつ効率的に回収できれば,堆積物コアの任意の深度で時間情報の抽出が可能となり,年代モデルの高精度化やイベント年代の決定が自由自在となる。花粉化石を用いた14C年代測定の応用研究はこれまでも報告されてきたが,花粉回収法や試料調製法の煩雑さ,試料の高純度化や処理工程の効率化における困難さから,花粉化石が主要な分析対象として認識されるには至っていない。我々は,医学や生物学において特定細胞の選別に利用されるセルソーターを用い,14C年代測定に必要十分な花粉化石を迅速かつ簡便に濃縮し,高精度分析を可能とする手法までを確立した。
セルソーターは,選別対象粒子にレーザーを照査し,得られた蛍光特性や形状をもとに,粒子の選別を可能とする。一般に細胞の選別を行うセルソーターに対し,土壌から抽出した有機質分画を投入すると動作不良を引き起こすが,装置の機能改良および試料調製法の最適化から花粉化石濃縮への実用化を果たし,約半日で純度99%以上の花粉化石を100万粒の濃縮することに成功した。
濃縮花粉化石の14C年代測定は,福井県に所在する水月湖にて掘削され,これまでに800点を超える14Cデータが報告される年縞堆積物コアを用い,分析手法の信頼性を検証した。炭素量で約50-100μgに相当する花粉化石を,およそ20-30gの堆積物コアから濃縮し,14C微量測定のための試料調製を行った後,東京大学総合研究博物館のコンパクトAMSシステム(NEC 0.5 MV 1.5SDH-1)にて分析を行った。花粉化石から得られた14C年代は,先行研究で報告された大型植物化石の14Cデータを完全に復元し,本分析手法が堆積物コアの実用的手段であることが示された。また,花粉化石による14C年代測定の応用は,年代モデルの高精度化に留まらず,大型植物化石や鍾乳石の14Cデータで示される気候変動シグナルを新たな視点で評価する手段を提供する。