日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 304 (3F)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)、座長:岡 顕

15:52 〜 16:07

[MIS19-13] 水月湖に保存された花粉化石の酸素安定同位体比変動

*山田 圭太郎1大森 貴之2北場 育子1中川 毅1 (1.立命館大学総合科学技術研究機構、2.東京大学総合研究博物館)

キーワード:古気候、安定同位体、花粉、セルソーター、水月湖

大気・海洋・陸域・極域の相互作用は、気候変動メカニズムを考えるうえで重要な要素である(Lowe et al., 2008)。花粉分析は、陸域の古気候情報を復元する手法の一つとして古くから使われてきた。しかしながら、気候変動に対する植生応答は非線形的である。これによって生じる植生の応答ラグは、花粉組成に基づく古気候記録とそれ以外の古気候記録の前後関係の検証を困難にしていた。このような背景の中、花粉化石の安定同位体比は、他の古気候記録とも高精度対比が可能な古気候指標として有力視されてきた(Loader and Hemming, 2004)。しかし、堆積物から花粉化石を単離することは容易ではなく、古気候学研究への応用は実現していなかった。本研究では、“セルソーター”を用いて花粉化石を濃縮し、その安定同位体比を測定することで、年代モデルが確立している福井県水月湖における1-2万年前の古気候変動の復元を試みた。

 水月湖は3 km四方の湖で、最大水深は34 mに達する。水月湖では“年縞”と呼ばれる、一年ごとに縞を形成する堆積物が過去7万年間に渡って堆積している。これまで水月湖では、複数の掘削が行われてきた。特に水月湖の中央付近で掘削された、SG93とSG06と呼ばれる二つのコアは、800点を超える放射性炭素年代測定、精密な縞の計数、歴史記録やテフラの対比などに基づき、極めて精密な年代が決定されている(e.g. Staff et al., 2011; Bronk Ramsey et al., 2012; Marshall et al., 2012; Schlolaut et al., 2012)。本研究では、年代や花粉の含有率が既知なSG06コアから花粉化石を抽出した。

 花粉の抽出を行ったセルソーターは、導入した粒子のフォトルミネッセンスに基づき、一粒子毎に分別することができる。花粉化石を主として構成するスポロポレニンは、可視光に対して自家蛍光する。そのため、花粉化石は蛍光色素を使わずにセルソーターで分取することが可能で(Tennant et al., 2013)、年代測定や安定同位体比測定用の試料として供することができる。そこで、堆積物試料に対して化学的・物理的な前処理を行ったのち、セルソーターに導入し、1サンプルあたり約50万粒の花粉化石を抽出した。抽出した花粉化石を乾燥及び定量分取したのち、Thermo Scientific社製の熱分解型元素分析計を用いて、酸素の安定同位体比の測定を行った。
 得られた花粉化石の酸素安定同位体比は、1-2万年前にかけて大きな増減を示した。変動はNGRIPやHulu Caveの酸素安定同位体比と大局的には同様の変動傾向を示しており、気候変動のシグナルを保存している可能性を示唆している。安定同位体比を用いることで、花粉化石からも各地域間における気候変動の前後関係について、より定量的に見積もれる可能性がある。また、花粉組成に基づく植生復元と組み合わせることで、気候変動とそれに伴う植生の応答ラグを定量化できる可能性がある。今後、花粉化石の安定同位体比を分析することで、新たな陸域の古気候情報を得られる可能性がある。