16:22 〜 16:45
[MIS19-15] 沿岸域におけるマイクロプラスチックの堆積フラックス
★招待講演
キーワード:マイクロプラスチック、堆積フラックス
1. はじめに
年間480 – 1270万トンのプラスチックが海洋へ流出していると見積もられている1).海洋に流出したプラスチックは酸素や紫外線によって性状が劣化し微細化する.微細化したプラスチックのうちサイズが0.3–5mmのものをマイクロプラスチック(以下,MP)と呼ぶ.一般に,プラスチックは漂流中に海水中の残留性有機化合物(POPs)を吸着するため,MPの誤飲誤食等による生態系への悪影響が懸念されている2).海洋生態系への影響を明らかにするためには海洋環境中におけるMPの動態を明らかにすることが必要不可欠である.最近,海底がMPのシンクになっている可能性が示唆されており3),実際に海底から高い数密度でMPが抽出されている4), 5).ただし,沈降フラックスや沈降過程の詳細はほとんど明らかになっていない.これまで,コアサンプリングに基づく底質中での数密度の深度分布を求めた研究例5)はあるが,堆積層の年代測定は行われておらず,MPの堆積フラックスは見積もられていない.そこで,我々は,海底堆積層が乱されていない別府湾湾奥部で底質コアを採取し,MPを抽出すると供に,堆積層の年代測定を行い,別府湾におけるMPの堆積フラックスを見積もった.
2. 調査概要
本研究では,海底堆積層が乱されておらず,コアサンプリングによる年代測定の実績6)がある別府湾湾奥を調査海域に選定した.別府湾は,湾奥部ですり鉢状の海底地形を有し,最深部は水深70m程度であるのに対し,湾口部は水深45mと比較的浅くなっている.この地形的特徴により,成層期には湾奥部に貧酸素水塊が安定的に形成される.今回の調査(2017/10/12)では別府湾最深部の水深70m地点で調査を行ない,グラビティーコアラー(内径11cm,長さ50cm)を用いて5本のコア資料を採取した.
年代測定サンプル(1本)の堆積層の年代を決定するために210Pb法を用いた.年代測定サンプル以外の4本のサンプルの年代は,各コアサンプルで共通して見られるタービダイト層の年代を用いて決定した.帯磁率(泥を主体とする堆積物で,砂粒子が多く含まれる層で数値は大きい)をもとに各コアサンプルのタービダイト層の同時間面対比を行った6).
3.結果と考察
今回採取した40cmの堆積物は,1998年以降のものであることが明らかになった.4本のMP数密度測定用サンプルからMPを抽出した結果,トータルで142 個のMPが検出された.抽出した個数と各底質コアサンプルの年代測定より,2017-1998年間のMP数密度の推移を5年間隔で計算した.その結果,各期間での数密度には有意な差が認められず,20年間の平均堆積フラックスを計算したところ年間223 (個/m2)となった.日本のプラスチック生産量は1990年頃からほぼ横ばいであるため,1998年以降の堆積フラックスも時間的に大きく変化していないと推察される.
別府湾堆積域の面積(410 km2)7)に,今回の調査で見積もった年間の堆積速度223 (個/m2・年)を掛けると,年間約900億個のMPが別府湾海底に堆積していることになる.これは全海洋の表層に漂流しているとされるプラスチック量(>5.25兆個)8)の1~2%程度に相当する.沿岸域がほとんど含まれていないためこの見積もりは過小評価である可能性は高いが,一方で我々の調査では,堆積フラックスの精度に影響するMP数密度の標準誤差が大きいため,今後,追加調査を行いデータの精度を向上させていく必要がある.将来的には,堆積フラックスの経年変化を明らかにすることで,プラスチック生産量と海底への堆積フラックスとの関係を明らかにしていきたい.そのためには,(1940年代まで遡れるような)より長いコアを用いた底質のサンプリングが必要となる.我々は,2018年の夏季に同じ別府湾で120cmの長さのコアを用いて底質を採取した.可能であれば公演時にはこれらの成果についても報告したいと考えている.
1) Jambeck et al., Science, 2015.
2) Andrady, Marine pollution bulletin, 2011.
3) Cózar et al., Proceedings of the National Academy of Sciences, 2014.
4) Sagawa et al., Marine pollution bulletin, 2018.
5) Matsuguma et al., Archives of environmental contamination and toxicology, 2017.
6) Kuwae et al., Journal of Asian Earth Sciences, 2013.
7) 柳哲雄, 瀬戸内海の海底環境, 恒星社厚生閣, 2008.
8) Eriksen et al., PloS ONE, 2014.
年間480 – 1270万トンのプラスチックが海洋へ流出していると見積もられている1).海洋に流出したプラスチックは酸素や紫外線によって性状が劣化し微細化する.微細化したプラスチックのうちサイズが0.3–5mmのものをマイクロプラスチック(以下,MP)と呼ぶ.一般に,プラスチックは漂流中に海水中の残留性有機化合物(POPs)を吸着するため,MPの誤飲誤食等による生態系への悪影響が懸念されている2).海洋生態系への影響を明らかにするためには海洋環境中におけるMPの動態を明らかにすることが必要不可欠である.最近,海底がMPのシンクになっている可能性が示唆されており3),実際に海底から高い数密度でMPが抽出されている4), 5).ただし,沈降フラックスや沈降過程の詳細はほとんど明らかになっていない.これまで,コアサンプリングに基づく底質中での数密度の深度分布を求めた研究例5)はあるが,堆積層の年代測定は行われておらず,MPの堆積フラックスは見積もられていない.そこで,我々は,海底堆積層が乱されていない別府湾湾奥部で底質コアを採取し,MPを抽出すると供に,堆積層の年代測定を行い,別府湾におけるMPの堆積フラックスを見積もった.
2. 調査概要
本研究では,海底堆積層が乱されておらず,コアサンプリングによる年代測定の実績6)がある別府湾湾奥を調査海域に選定した.別府湾は,湾奥部ですり鉢状の海底地形を有し,最深部は水深70m程度であるのに対し,湾口部は水深45mと比較的浅くなっている.この地形的特徴により,成層期には湾奥部に貧酸素水塊が安定的に形成される.今回の調査(2017/10/12)では別府湾最深部の水深70m地点で調査を行ない,グラビティーコアラー(内径11cm,長さ50cm)を用いて5本のコア資料を採取した.
年代測定サンプル(1本)の堆積層の年代を決定するために210Pb法を用いた.年代測定サンプル以外の4本のサンプルの年代は,各コアサンプルで共通して見られるタービダイト層の年代を用いて決定した.帯磁率(泥を主体とする堆積物で,砂粒子が多く含まれる層で数値は大きい)をもとに各コアサンプルのタービダイト層の同時間面対比を行った6).
3.結果と考察
今回採取した40cmの堆積物は,1998年以降のものであることが明らかになった.4本のMP数密度測定用サンプルからMPを抽出した結果,トータルで142 個のMPが検出された.抽出した個数と各底質コアサンプルの年代測定より,2017-1998年間のMP数密度の推移を5年間隔で計算した.その結果,各期間での数密度には有意な差が認められず,20年間の平均堆積フラックスを計算したところ年間223 (個/m2)となった.日本のプラスチック生産量は1990年頃からほぼ横ばいであるため,1998年以降の堆積フラックスも時間的に大きく変化していないと推察される.
別府湾堆積域の面積(410 km2)7)に,今回の調査で見積もった年間の堆積速度223 (個/m2・年)を掛けると,年間約900億個のMPが別府湾海底に堆積していることになる.これは全海洋の表層に漂流しているとされるプラスチック量(>5.25兆個)8)の1~2%程度に相当する.沿岸域がほとんど含まれていないためこの見積もりは過小評価である可能性は高いが,一方で我々の調査では,堆積フラックスの精度に影響するMP数密度の標準誤差が大きいため,今後,追加調査を行いデータの精度を向上させていく必要がある.将来的には,堆積フラックスの経年変化を明らかにすることで,プラスチック生産量と海底への堆積フラックスとの関係を明らかにしていきたい.そのためには,(1940年代まで遡れるような)より長いコアを用いた底質のサンプリングが必要となる.我々は,2018年の夏季に同じ別府湾で120cmの長さのコアを用いて底質を採取した.可能であれば公演時にはこれらの成果についても報告したいと考えている.
1) Jambeck et al., Science, 2015.
2) Andrady, Marine pollution bulletin, 2011.
3) Cózar et al., Proceedings of the National Academy of Sciences, 2014.
4) Sagawa et al., Marine pollution bulletin, 2018.
5) Matsuguma et al., Archives of environmental contamination and toxicology, 2017.
6) Kuwae et al., Journal of Asian Earth Sciences, 2013.
7) 柳哲雄, 瀬戸内海の海底環境, 恒星社厚生閣, 2008.
8) Eriksen et al., PloS ONE, 2014.