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[MIS19-16] 別府湾堆積物: 人新世-完新世境界の補助ストラトタイプ候補としてのポテンシャル
キーワード:人新世、別府湾海底堆積物、補助模式地
近年著しく増加してきた人間活動による地球システムの撹乱,生態系改変は全球におよび,新しい地質時代「Anthropocene」を提唱するに値するほど大きな地球史イベントであるとして注目されている.Anthropoceneの始まりを示す地質境界の模式地(Global Boundary Stratotype Section and Point: GSSP)について,国際層序委員会(ICS)の下部組織(第四紀層序小委員会)のAnthropocene Working Group (AWG)を中心に現在検討されている.その模式地については,氷床コアやサンゴ骨格,年輪に記録される1950年代に始まる核実験による14C濃度や239Pu濃度の急激な増加が有力な候補としてあがっているが,核実験による放射能汚染が必ずしも地球システムや生物相を大きく変えるほどの影響ではなかったことや,地球温暖化で氷の記録媒体そのものが消失したり,10万年,100万年もの間に半減期の短い14Cのシグナルも消失すると考えられるため,地質学的時間スケールでも安定して存在する記録媒体と補助指標を持つ補助模式地(Auxiliary stratotype)がGSSP設定に不可欠である.地質境界はしばしば海底堆積物の生物群集や大気・海洋環境の劇的な変化で与えられてきたが,その記録媒体の選定対象として貧酸素な海底堆積物記録が注目されている.また,補助指標はPOPsや海洋マイクロプラスチック,化石燃料燃焼起源の球状微粒炭,海洋生態系シフトの指標となる微化石群集,絶滅種など,地球規模でその変化が対比できるものが含まれる(Lewis and Maslin, 2015; Waters et al., 2018).貧酸素海底堆積物の補助模式地候補として,幾つかの海域の堆積物が検討されているが,日本の貧酸素下海底堆積物の存在は知られておらず,候補にも上がっていない.本研究では,日本の沿岸海洋で唯一貧酸素環境下で年縞に相当する葉理構造が発達する別府湾堆積物に着目し,これまでの層序学的知見とその優位性を述べ,補助模式地候補としてAnthropoceneマーカーのデータセットの構築の必要性について述べる.