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[MIS19-17] 広島県産石筍の安定酸素・凝集同位体に記録された18.1−4.5 kaの気温・降水変動史
キーワード:石筍、炭酸凝集同位体、気温復元、最終氷期、完新世、古気候
鍾乳洞内部で発達する石筍の安定酸素同位体組成(δ18O)は、地域の降水に由来する滴下水の同位体組成と、結晶析出時の温度にコントロールされている。しかし、酸素同位体記録単体から、両者の影響を定量的に分離することは容易ではない。
“炭酸凝集同位体温度計”は、炭酸塩鉱物の酸解離により生じる二酸化炭素凝集同位体(13C18O16O)の存在度異常(Δ47)を測定し、鉱物沈殿温度のインデックスとして利用する。この手法を石筍に適用することで、滴下水の同位体情報に依存しない古温度復元が可能である。
本研究では、九州大学に配備された質量分析計MAT253と前処理装置を用い、広島県産の石筍Hiro-1の50層準について凝集同位体の測定を行った。石筍Hiro-1は18.1−4.5 kaの形成年代を持ち、10.8–7.7 kaと12.8–11.4 kaの期間には成長の中断が見られる。
Hiro-1のΔ47値は0.683−0.741‰で推移し、石筍と似た形成様式をもつトゥファによる温度較正式(Kato et al., 2019)を用いると、3.2−23.4 ºCの温度が導かれる。各時期の値を見ると、18.0−16.0 kaでは5.2−12.5 ºC(平均7.4 ºC)、15.9−14.5 kaでは10.4−12.8 ºC(平均11.9 ºC)、14.2−12.6 kaでは3.2−9.4 ºC(平均6.1 ºC)、11.0−10.7 kaでは6.8−12.4ºC(平均9.2 ºC)、7.7−4.9 kaでは7.6−23.4 ºC(平均15.7 ºC)、4.9−4.5 kaでは3.9−9.7 ºC(平均8.2 ºC)という結果が得られた。
Δ47値による温度復元結果は、最終氷期最寒冷期(LGM)やYounger-Dryas期の気温低下や、完新世へ向けた気温上昇、Hypsithermal期の温度ピークといった既知の気候変動と概ね一致しており、LGM(18.0−16.0 ka)と完新世中期(7.7−4.9 ka)の気温変化幅は8.3 ºCと導かれた。5.9−14.5 kaと10.7 kaでは、前後の時期に比べて高いδ18O値と低いΔ47値(高い温度)が得られているが、これらの時期は、Hori et al.(2013)が高いPCP(prior calcite precipitation)を復元した時期と一致することから、乾燥による強い非平衡効果があったと推定され、復元された温度情報は信頼できないものと考えられる。
Hiro-1のδ18OHiro-1値に対して、復元温度を用いた補正を行うことにより、過去の天水(もしくは滴下水)のδ18OMW値を導くことができる。復元されたδ18OMW値は、氷期から完新世に向けて1−2‰上昇しており、この変動は、夏季アジアモンスーン(EASM)の強まりによる夏季降水の増大と、瀬戸内海への海進による内陸度の低下を反映したものと推定される。
引用文献
Kato H., Amekawa S., Kano A., Mori T., Kuwahara Y., Quade J. (2019) Seasonal temperature changes obtained from carbonate clumped isotopes of annually laminated tufas from Japan: Discrepancy between natural and synthetic calcites. GCA 244, 548–564.
Hori M., Ishikawa T., Nagaishi K., Lin K., Wang B.-S., You C.-F., Shen C.-C., Kano A. (2013) Prior calcite precipitation and source mixing process influence Sr/Ca, Ba/Ca and 87Sr/86Sr of a stalagmite developed in southwestern Japan during 18.0 4.5 ka. Chem. Geol. 347, 190–198.
“炭酸凝集同位体温度計”は、炭酸塩鉱物の酸解離により生じる二酸化炭素凝集同位体(13C18O16O)の存在度異常(Δ47)を測定し、鉱物沈殿温度のインデックスとして利用する。この手法を石筍に適用することで、滴下水の同位体情報に依存しない古温度復元が可能である。
本研究では、九州大学に配備された質量分析計MAT253と前処理装置を用い、広島県産の石筍Hiro-1の50層準について凝集同位体の測定を行った。石筍Hiro-1は18.1−4.5 kaの形成年代を持ち、10.8–7.7 kaと12.8–11.4 kaの期間には成長の中断が見られる。
Hiro-1のΔ47値は0.683−0.741‰で推移し、石筍と似た形成様式をもつトゥファによる温度較正式(Kato et al., 2019)を用いると、3.2−23.4 ºCの温度が導かれる。各時期の値を見ると、18.0−16.0 kaでは5.2−12.5 ºC(平均7.4 ºC)、15.9−14.5 kaでは10.4−12.8 ºC(平均11.9 ºC)、14.2−12.6 kaでは3.2−9.4 ºC(平均6.1 ºC)、11.0−10.7 kaでは6.8−12.4ºC(平均9.2 ºC)、7.7−4.9 kaでは7.6−23.4 ºC(平均15.7 ºC)、4.9−4.5 kaでは3.9−9.7 ºC(平均8.2 ºC)という結果が得られた。
Δ47値による温度復元結果は、最終氷期最寒冷期(LGM)やYounger-Dryas期の気温低下や、完新世へ向けた気温上昇、Hypsithermal期の温度ピークといった既知の気候変動と概ね一致しており、LGM(18.0−16.0 ka)と完新世中期(7.7−4.9 ka)の気温変化幅は8.3 ºCと導かれた。5.9−14.5 kaと10.7 kaでは、前後の時期に比べて高いδ18O値と低いΔ47値(高い温度)が得られているが、これらの時期は、Hori et al.(2013)が高いPCP(prior calcite precipitation)を復元した時期と一致することから、乾燥による強い非平衡効果があったと推定され、復元された温度情報は信頼できないものと考えられる。
Hiro-1のδ18OHiro-1値に対して、復元温度を用いた補正を行うことにより、過去の天水(もしくは滴下水)のδ18OMW値を導くことができる。復元されたδ18OMW値は、氷期から完新世に向けて1−2‰上昇しており、この変動は、夏季アジアモンスーン(EASM)の強まりによる夏季降水の増大と、瀬戸内海への海進による内陸度の低下を反映したものと推定される。
引用文献
Kato H., Amekawa S., Kano A., Mori T., Kuwahara Y., Quade J. (2019) Seasonal temperature changes obtained from carbonate clumped isotopes of annually laminated tufas from Japan: Discrepancy between natural and synthetic calcites. GCA 244, 548–564.
Hori M., Ishikawa T., Nagaishi K., Lin K., Wang B.-S., You C.-F., Shen C.-C., Kano A. (2013) Prior calcite precipitation and source mixing process influence Sr/Ca, Ba/Ca and 87Sr/86Sr of a stalagmite developed in southwestern Japan during 18.0 4.5 ka. Chem. Geol. 347, 190–198.