日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS19-P03] 米国グリーンリバー層に見られる湖成チャートの堆積リズムと湖生物生産との関係性

*隈 隆成1長谷川 精2山本 鋼志1吉田 英一1池田 昌之3勝田 長貴4Whiteside J.5 (1.名古屋大学、2.高知大学、3.静岡大学、4.岐阜大学、5.Southampton大学)

キーワード:湖成層、始新世、生物生産、チャート、シリカ、pH

海成堆積物起源の層状チャートは,放散虫などの珪質殻を主体とし,その層厚変動は地球軌道要素変動に伴う海洋表層生産量変動(Hori et al., 1993)や陸域ケイ酸塩風化(Ikeda et al., 2017)を反映すると考えられている.一方,珪質な殻が保存されていないにも関わらず,湖成堆積物中にも層状チャートがしばしば報告されている(Eugster, 1967; Hesse, 1989).湖成チャートの場合,シリカの沈殿にはpH9辺りで変動する湖水のアルカリ度が重要であると考えられており,その成因についてはいくつかのメカニズムが提唱されている.例えば,高アルカリ環境の湖水中で多量に溶存したシリカ成分が,季節的な雨水や河川水の流入によって湖水のpHが低下し,シリカ溶解度が減少することによって沈殿するという説がある(Eugster, 1967).他にも,湖表層での藻類生産もしくは湖底での有機物分解に伴い,湖水のpHが変動することでシリカの溶解―沈殿が起こるという考えも提案されている(Behr and Rohricht, 2000).しかしながら,湖成チャートに藻類化石が濃集した証拠はまだ示されていない.
本研究では,米国中西部に広く分布する始新世前期-中期の湖成層であるグリーンリバー層中に特徴的に見られる層状チャートに着目し,その形成環境や形成メカニズムを検討した.ユタ州北東部のIndian Canyonセクションの野外調査の結果,層状チャートはグリーンリバー層上部の蒸発岩を狭在する低湖水位期のドロマイト卓越層準で見られ,ドロマイト層と明瞭に互層して5‒10 cm間隔で周期的に介在していた.採取したチャート層とドロマイト層の境界部に対して,走査型X線分析顕微鏡(SXAM)を用いた主要元素のマッピング分析や,蛍光顕微鏡を用いた有機物組成の観察を行った.その結果,ドロマイト層中にCaが,チャート層にSiが濃集しており,1‒2 cm間隔で互層する両岩相の境界で明瞭な元素濃集が見られた.また,Si濃集部には良く蛍光を発する有機物の球状殻が密集しており,その大きさも直径約30‒40 μmと良く揃っていた.始新世前期の湖には,珪藻がまだ広く分布しておらず,球状殻はグリーンリバー層から多産するBottryococcus brauniiのような緑藻類の可能性が高い.湖成チャートのSi濃集部に,藻類起源有機物が特徴的に密集していることは,チャートの成因に藻類起源有機物が関与していることを示唆する.
グリーンリバー層の堆積当時は周辺の活発な火山活動に伴い,湖水のアルカリ度は高かったと考えられている.高アルカリな湖水に溶存していたシリカが沈殿するメカニズムを考えると,藻類起源有機物の堆積後の分解により,有機物密集部で有機酸やCO2が生じて間隙水中のpHの低下を引き起こし,その結果としてシリカ沈殿が起こったと考えられる.すなわち,湖成チャートの成因として,湖生物生産量変動が関わっていると考えられる.上述したようにグリーンリバー層に見られる層状チャートは1‒2cm及び5‒10 cm間隔で周期的に介在している.狭在する凝灰岩の放射年代(Smith et al., 2008)などから同層の堆積速度は10‒15 cm/kyrと推定されており,層状チャートの堆積は約67‒200年周期と約333‒1000年周期であると見積もられる.したがって,グリーンリバー層の湖成チャートは,百年スケールの湖藻類生産量の変動を反映している可能性がある.