日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS19-P21] 最終退氷期のアラスカ湾における珪質鞭毛藻・渦鞭毛藻と融氷水との関係

*友川 明日香1岡崎 裕典1小野寺 丈尚太郎2堀川 恵司3 (1.九州大学理学部地球惑星科学科、2.海洋研究開発機構地球環境観測研究開発センター、3.富山大学大学院理工学研究部(理学))

キーワード:珪質鞭毛藻、アラスカ湾

珪質鞭毛藻は、生物源オパール骨格を持つ植物プランクトンであり、その化石群集は生層序や古環境復元に利用されている。現生の珪質鞭毛藻群集は、熱帯から温帯に生息するDictyocha属と亜寒帯から極域に生息するStephanocha属に大別され、その比(Dictyocha/Stephanocha比)が海表面水温と対応していることが知られている。Actiniscus pentateriasは生物源オパール骨格を持つ渦鞭毛藻類の一種で、低塩分水の指標として用いられる。アラスカ湾は、北東太平洋に位置し、西方のアラスカ半島と東方のアレクサンダー諸島の間に挟まれている。その沿岸域の出入りの多いフィヨルドは、最終氷期に北米大陸西部に存在したコルディレラ氷床が残した氷河地形である。本研究では、アラスカ湾堆積物中の珪質鞭毛藻・渦鞭毛藻群集組成とコルディレラ氷床の融氷との関係を解明することを目的とする。2017年夏に学術研究船白鳳丸KH17-3航海においてアラスカ湾で採取されたKH-17 CL14コア(59° 33.350’N, 144° 09.344’E、水深695 m)を研究に使用した。CL14コア試料は、最終氷期以降の過去17000年間を記録していることが浮遊性有孔虫殻の放射性炭素年代測定によって示されている。CL14コア試料の層準は、最終退氷期における千年スケールの温暖イベントであるベーリングアレレ―ド(BA, 14600-12900年前)と寒冷イベントであるヤンガードリアス(YD, 12900-11500年前)を完全に含んでおり、本研究では48層準を選び、スライドを作成した。作成したスライドを光学顕微鏡下で観察し、珪質鞭毛藻は1サンプルにつき100個体を同定・計数、渦鞭毛藻のActiniscus pentateriasは試料の乾燥重量当たりの個体数を計数した。出現した珪質鞭毛藻の分類を行い、Dictyocha属7種2亜種とStephanocha属4種を同定した。KH-17 CL14コアにおける珪質鞭毛藻群集組成は、YD以降にDictyocha属(低‐中緯度)が全群集の約半数を占めた一方で、BAにStephanocha属(高緯度)の割合が増加し、特にStephanocha speculumが多産した。このことは、CL14コアのDictyocha/Stephanocha比が最終退氷期の温暖/寒冷イベントを単純に反映していないことを示唆している。また、渦鞭毛藻Actiniscus pentateriasの個体数はBA後半とYDの直後にピークを示し、低塩分化を示唆した。この低塩分化は、コルディレラ氷の融氷水による可能性が高い。この解釈は、BA後半とYD直後のActiniscus pentateriasの増加のタイミングが、それぞれ融氷水パルス1Aおよび1Bと一致することと矛盾しない。また、北太平洋高緯度域の生物生産がBAに増加することが報告されている。その理由としてLam et al. (2013) は、融氷水の流入が海洋表層の成層化を発達させることで光環境が改善したという説を唱えている。CL14コアの最も多く産出する珪質鞭毛藻群集種は、BA/YDを境にStephanocha speculum からDictyocha mandraiに移り変わった。現在のアラスカ湾においてStephanocha speculumは、高生物生産指標となることがTakahashi (1989) によって指摘されている。したがって、BAの高いStephanocha属の産出は、コルディレラ氷床の融氷に起因する高い生物生産に伴うものであろう。