日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS19-P25] 東京湾海洋堆積物コアを用いた後期完新世における古水温変動の復元

*梶田 展人1,2,3,4原田 尚美5佐藤 都5小川 奈々子1横山 祐典1,2,4沢田 近子1宮入 陽介1宇都宮 正志3鈴木 淳3川幡 穂高1,2,3 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.東京大学大学院 理学系研究科地球惑星科学専攻、3.産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門 、4.海洋研究開発機構 生物地球化学研究分野、5.海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター)

キーワード:古気候、東京湾、後期完新世、アルケノン

将来の気候変動による社会への影響が懸念されている現在、完新世の気候変動とその人類文明への影響について明らかにすることは重要である。東京湾周辺は、縄文時代において日本で最大の人口密集地帯であった。また、縄文時代以降においては幾度となく日本史上の大きな転換の舞台となった。中期~後期完新世における東京湾周辺の古環境変遷は、湾岸に分布する貝塚の群衆やサンゴなどの示相化石、歴史文書等に基づいて推定されてきたが、連続的かつ高時間解像度の復元記録はこれまで存在しなかった。

淡青丸KT12-06航海において東京湾から8.99mの海洋堆積物コアを採取した。堆積物コアに含まれていた22個の貝化石のAMS放射性炭素年代測定、および宝永噴火のスコリア層によって高精度の年代モデルを構築した結果、この堆積物コアには過去4500年間の古環境記録が連続的に含まれていることが判明した。生物生産量の指標となる全有機炭素量(TOC)測定、表層水温変動を定量的に復元できるアルケノン不飽和度(Uk37)測定、アルケノンを生成する円石藻の群集解析を行った。

TOCの値は、沿岸の開発が始まった1700AD以前は1.3~1.7 wt. %の範囲で安定して推移しており、恒常的な生物生産があったことが示唆された。コアに含まれる円石藻化石のほとんどはG. oceanicaであり、G.oceanicaの培養実験で求められた換算式を用いてUk37からアルケノン古水温を計算した。約400 AD~現在のアルケノン水温は20.5℃~22.4℃(平均21.6℃)の範囲で変動した。1700 AD、1420 AD、1280 AD、1010 AD前後が比較的寒冷な時期であり、それぞれ太陽活動が低調であった、Maunder、 Spörer、 Wolf、Oort極小期に一致していた。縄文後期~古墳時代に相当する約2500BC~400ADのアルケノン水温は、平均22.6℃と比較的高い水準で推移しており、先行研究における報告と大局的には一致していた。しかし、本研究の連続的かつ高時間解像度の温度復元記録によるとこの時期の表層海水温は数百年スケールで大きく変動(19.5℃~25.3℃)していたことが示唆された。特に520~440BCと2360~2280BCには大規模な寒冷期(それぞれ20.0℃、19.5℃)が認められた。前者は、弥生の小氷期とも呼ばれる500BC前後の寒冷期に相当し、太陽活動の低下に起因するものと考えられる。後者は、一時的なモンスーンの弱化によって全球的に異常な寒冷/乾燥化イベントが報告されている時期であり、東京湾もその影響を受けていた可能性が高いことが示された。縄文中期~弥生初期にかけて、東京湾周辺では水稲栽培が開始されず、狩猟採集をベースとした生活が続いていたが、その背景の一つにはこのような不安定な気候があったかもしれない。