[MIS19-P30] 海洋大循環モデルによるPa/Thの全球シミュレーション
キーワード：231Pa/230Th比、海洋循環指標、bottom scavenging、海洋大循環モデル
堆積物中の231Pa/230Th比は、氷期における海洋循環の強さを推定するプロキシデータの一つとして知られる。しかし、海水中の 231Pa,230Th の分布に関する観測データは少なく、その全球分布を決める過程の理解は不十分である。また、いくつかのモデル研究も行われてきたが、それらは観測データを十分に再現しているとはいえない。そこで本研究は、近年GEOTRACESなどの計画により海洋中の231Pa、230Th溶存態分布が豊富になってきたことを踏まえ、観測に則する分布を海洋大循環モデルで再現することを第一の目標とした。具体的には、231Pa,230Th が海洋中の沈降粒子によって除去される過程を再現した先行研究 (Siddall et al., 2005) のモデルを元に、近年提示された海底の懸濁層における粒子除去過程 (bottom scavenging; Okubo et al., 2012; Roy-Barman, 2009) や、沈降除去強度の粒子濃度依存性 (Henderson et al., 1999) を導入することで、観測の分布をよく再現するためのモデル改良を行った。また本研究では、また、最も観測に則した実験結果(Control実験)について、分布を形成する要因を、鉛直一次元過程、海洋の移流・拡散、bottom scavengingの三つに切り分けるための追加実験を実施した。そして、その結果を解析することで、それらの過程が堆積物中の231Pa/230Th比の全球分布に与える影響を明らかにした。
モデルの改良・パラメタ調整の結果、GEOTRACESで観測された 231Pa,230Th の溶存態の分布を現実的に再現することができた。bottom scavengingを考慮したことにより先行研究(Rempfer et al., 2017) でも示唆されるように、231Pa,230Th ともに深層の分布が改善されることが確認できた。bottom scavenging を考慮することで231Paに関しては現実的な溶存態分布が再現できた一方で、230Th の溶存態の分布はbottom scavenging の考慮だけでは十分に観測を再現できなかった。そこで230Th の溶存態の分布を再現する為、Siddall et al. (2005) で示された粒子除去強度のパラメタの値を再調整するとともに、Henderson et al. (1999) にならい、沈降除去強度の海洋中の粒子濃度依存性を考慮した実験を行った。その結果、230Th の溶存態の分布に関してもより現実的に再現することができた。
次に、観測を最もよく再現した数値実験(Control実験)について、堆積物中の 231Pa/230Th 比の全球分布を決める過程を議論した。解析の結果、その比を決める過程は、231Pa と 230Th にかかる移流・拡散の寄与の違いにより大部分が説明できることを確認した。これは、移流の 231Pa のみへの影響を抽出した実験においても、231Pa/230Th 比の分布を概ね再現できたことから判断できる。一方、bottom scavenging は231Pa に対するこの移流・拡散の効果を抑制する方向にはたらき、231Pa/230Th 比の海域間の勾配を弱めることが分かった。さらに、231Pa と比較すると寄与は小さいが、移流・拡散は 230Th の分布形成に対してもはたらき、231Pa に対する移流・拡散の寄与で生じる 231Pa/230Th 比の勾配を弱める方向にはたらくことがわかった。
本研究では、現代の海洋物理場を用いたモデル実験において、分配平衡定数に依存する鉛直一次元的な過程、移流・拡散の過程、bottom scavengingの過程の三つに切り分け、それぞれの過程が堆積物中の231Pa/230Th比の全球分布に与える影響について評価を行うことができた。今後、氷期海洋について同様の実験を行うことで、氷期の大西洋子午面循環の強度を推定するプロキシデータとしての堆積物中の231Pa/230Th比に関する理解が深められると考えられる。
モデルの改良・パラメタ調整の結果、GEOTRACESで観測された 231Pa,230Th の溶存態の分布を現実的に再現することができた。bottom scavengingを考慮したことにより先行研究(Rempfer et al., 2017) でも示唆されるように、231Pa,230Th ともに深層の分布が改善されることが確認できた。bottom scavenging を考慮することで231Paに関しては現実的な溶存態分布が再現できた一方で、230Th の溶存態の分布はbottom scavenging の考慮だけでは十分に観測を再現できなかった。そこで230Th の溶存態の分布を再現する為、Siddall et al. (2005) で示された粒子除去強度のパラメタの値を再調整するとともに、Henderson et al. (1999) にならい、沈降除去強度の海洋中の粒子濃度依存性を考慮した実験を行った。その結果、230Th の溶存態の分布に関してもより現実的に再現することができた。
次に、観測を最もよく再現した数値実験(Control実験)について、堆積物中の 231Pa/230Th 比の全球分布を決める過程を議論した。解析の結果、その比を決める過程は、231Pa と 230Th にかかる移流・拡散の寄与の違いにより大部分が説明できることを確認した。これは、移流の 231Pa のみへの影響を抽出した実験においても、231Pa/230Th 比の分布を概ね再現できたことから判断できる。一方、bottom scavenging は231Pa に対するこの移流・拡散の効果を抑制する方向にはたらき、231Pa/230Th 比の海域間の勾配を弱めることが分かった。さらに、231Pa と比較すると寄与は小さいが、移流・拡散は 230Th の分布形成に対してもはたらき、231Pa に対する移流・拡散の寄与で生じる 231Pa/230Th 比の勾配を弱める方向にはたらくことがわかった。
本研究では、現代の海洋物理場を用いたモデル実験において、分配平衡定数に依存する鉛直一次元的な過程、移流・拡散の過程、bottom scavengingの過程の三つに切り分け、それぞれの過程が堆積物中の231Pa/230Th比の全球分布に与える影響について評価を行うことができた。今後、氷期海洋について同様の実験を行うことで、氷期の大西洋子午面循環の強度を推定するプロキシデータとしての堆積物中の231Pa/230Th比に関する理解が深められると考えられる。