[MIS19-P31] 古水温復元のための北太平洋珪質鞭毛藻データセット構築と堆積物コアへの応用
キーワード:珪質鞭毛藻、モダンアナログ法、古水温、最終氷期、日本海、東シナ海
珪質鞭毛藻は、生物源オパールの骨格を持つ海生植物プランクトンである。現生の珪質鞭毛藻は、主に低・中緯度に生息するDictyocha属と、主に中・高緯度域に生息するStephanocha属の2属に大別され、2属の比を取ることで定性的な温度指標になることが知られている。モダンアナログ法は、現生群集データセット(表層堆積物試料中の珪質鞭毛藻群集組成と現場の水温との関係)と化石データセットを基に定量的復元を行う手法である。Poelchau (1976) は、北太平洋の広域における表層堆積物試料中の珪質鞭毛藻群集組成を明らかにし、このデータは現生群集データセットの主要部分となり得る。本研究ではモダンアナログ法に用いる現生群集データセットに北西太平洋域のデータを追加し、新たな現生群集データセットを構築し、堆積物コアに適用することを目的とした。本研究で用いたモダンアナログ法には (1) 表層(=現世)データセット、(2) 化石データセット、(3) 表層データセットに対応する現世気候のデータセットの3点が必要となる。(1) 表層データセットについては、Poelchau (1976) による96地点のデータに加え、日本周辺海域から採取された表層堆積物78サンプルのデータを追加した。各表層堆積物試料につき100殻の珪質鞭毛藻個体を同定・計数し、Poelchau (1976) のデータに合わせ3属7種に分類し表層データセットを構築した。(2) 化石データセットは日本海若狭湾で採取されたKR15-10 PC05コアと、東シナ海男女海盆で採取されたKY07-04 PC01コアを用いた。いずれの試料も最終氷期以降の珪質鞭毛藻群集組成データが得られている。(3) 表層データセットに対応する現世気候のデータセットはWorld Ocean Atlas(NOAA, 2016)で公開されている1955年 - 2012年の年平均表層水温の0.25度グリッドのデータを用いた。各表層堆積物サイトに最も近傍の点における水深0 mの水温データを用いた。モダンアナログ法は花粉群集用に開発されたPolygon 2.4.4を使用した(中川, 2008)。日本海若狭沖コアについては、最終氷期の低水温と完新世の高水温を復元でき、最終退氷期に12 ka -14.5 kaに持続的な水温上昇がみられた。東シナ海男女海盆コアの古水温復元結果は、最終氷期(10-15°C)から完新世(20-25°C)までを示し、最終退氷期に大きな変動があった。KY07-04 PC01コアでは、浮遊性有孔虫殻のMg/Ca比(20-25°Cの変動幅)と有機化合物TEX86(7-20°Cの変動幅)を用いた古水温復元の先行研究がある (Kubota et al., 2010; Nakanishi et al., 2012) 。本研究の古水温復元値は2つの先行研究の中間値を示したが、変動パターン、特に最終退氷期の変動は2つの先行研究とは異なるものであった。