日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 103 (1F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:苅谷 愛彦(専修大学)

09:45 〜 10:00

[MIS20-04] 北アルプス乗鞍火山の高山帯・亜高山帯における気温・地温状況

*佐々木 明彦1西村 基志2鈴木 啓助3 (1.国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース、2.信州大学大学院総合工学系研究科、3.信州大学理学部)

キーワード:気温観測、地温観測、森林限界、高山帯、乗鞍火山、北アルプス

乗鞍岳は標高2500~3000 mの山頂を有する火山体が南北に10 km以上にわたって連なる山域で,稜線付近には広大な高山帯がみられる.本地域は周氷河地形の研究対象として重要であるほか,植生帯と気候の関係を検討するうえでも貴重な研究対象になりうる.また,こうした巨大な山塊を挟んだ東西両斜面における積雪・融雪過程の違いなど,気象状況に対する山塊効果などを検討するうえでも重要な研究対象と考えられる.このような研究を今後実施するにあたり,乗鞍火山の各所で気温データを取得し,気温状況を整理することは基本的な作業として重要である.そこで本研究では,乗鞍火山の山地帯-亜高山帯の境界,亜高山帯-高山帯の境界,および高山帯において,気温の通年観測を行った.また,高山帯において地温の観測を実施した.
 気温の観測は,標高1700 mの亜高山帯下限,標高2500 mの高山帯下限,標高2795 mの高山帯の各観測点で実施した.温度観測には自記記録式のサーミスタ温度計(T&D社製 TR-52S)を用い,1時間毎にデータを記録した.気温の観測は2011年の秋季に開始した.地表面から2 mの高さに自然通風型の日射シェルターを設置し,それに温度センサーを格納して気温の観測を実施した.地温観測は標高2795 mの高山帯の砂礫斜面において2016年秋季に開始した.センサーは1 cm,10 cm,40 cm,100 cmの4深度に設置した.データロガーの電池切れのための欠測や,センサーの積雪への埋没による無効データがあるため,観測期間のデータは冬季を中心に一部取得できていない.それらをのぞき,気温データを整理した.  
 全観測期間を通じて,最高気温は標高1700 mにおける26.6℃,最低気温は最高所の2795 mにおける -26.8℃であった.平均気温は,データの欠測期間があるため算出が難しい年もあるが,標高2795 mでは2013年に-2.1℃,2016年に-0.3℃,2017年に-2.4℃であった.標高2500 mにおける年平均気温は,2014年に0.1℃,2017年に-0.3℃であった.標高1700 mにおける平均気温は,2014年に4.8℃,2015年に5.6℃であった.各観測点の月平均気温を用いて,温量指数を検討した結果,標高1700 mにおいて43.3℃・月(2014年),45.2℃・月(2015年)となり,亜高山帯下限の一般的な温量指数である45℃・月におおむね一致した.一方,標高2500 mにおける温量指数は,19.7℃・月(2014年),21.8℃・月(2015年),19.8℃・月(2017年)であり,高山帯下限の一般的な温量指数である15℃・月に比べると,かなり大きい値であった.実際の温度環境よりも,風や積雪の着き方などの山頂効果によって温度条件見合いよりも低所まで高山帯が広がっている可能性がある.
 高山帯の標高2795 mで観測された地温の最高・最低値は,いずれも1 cm深で記録され,それぞれ24.1℃,-19.3℃であった.1 cm深では,凍結進行期の10-11月に10回程度の日周期の凍結融解サイクルがみられ,その後は凍結したまま推移した.3月~6月が季節凍土の融解進行期にあたり,1 cm深ではおおむね20数回の日周期の凍結融解サイクルが認められた.一方,本観測期間において,10 cm以深では日周期の凍結融解サイクルは発生しなかった.