日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 103 (1F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:佐々木 明彦

12:00 〜 12:15

[MIS20-12] 氷河上の雪氷微生物がアジア山岳域の高山生態系に与える影響:氷河から流出するクリオコナイトによる氷河後退域の土壌形成

★招待講演

*竹内 望1塩向 雅斗1 (1.千葉大学)

キーワード:クリオコナイト、氷河後退域、天山山脈

ユーラシア大陸中央部の広大な乾燥地帯には,天山山脈をはじめとする巨大な山岳地帯が発達している.その頂上部に数多くする存在する氷河は,周囲の乾燥地帯に融解水を供給し,地域の人間社会を始め高山生態系の水資源として重要な役割を果たしている.近年の温暖化による山岳氷河の縮小は,地域社会や生態系に大きな影響を与える可能性が高く,現在大きな注目を集めている.一年を通じて寒冷な環境である氷河上には,雪氷生物と呼ばれる特殊な生物群集が存在する.アジアの山岳氷河では,氷の表面でシアノバクテリアと呼ばれる光合成微生物が大量に繁殖し,クリオコナイトと呼ばれる微生物複合体を形成している.この雪氷微生物由来の有機物を含むクリオコナイトは,やがて融解水とともに氷河の外に流出する.しかし,氷河から流出したクリオコナイトが周囲の環境にどのような影響を及ぼすかについては,ほとんどわかっていなかった.中国天山山脈に位置するウルムチNo.1氷河で,氷河表面,流出河川, および周辺の地表面から採取した堆積物を分析したところ,氷河末端から1600 m下流の地点まで流出したクリオコナイト粒が堆積していることが明らかになった.さらに,氷河末端に近い流出河川沿いの平坦地では,クリオコナイトが広範囲にわたって深さ20 cm以上堆積していた.以上の結果は,山岳氷河は単に周囲の環境に融解水を供給するだけでなく,有機物も供給し山岳地帯の土壌形成に重要な役割を果たしていることを強く示唆している.いままでほとんど注目されることがなかった雪氷上の微生物群集は,アジアに限らず世界各地の山岳地の生態系に対して大きな影響力を持っている可能性がある.