日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 103 (1F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:奈良間 千之(新潟大学)

13:45 〜 14:00

[MIS20-13] 山岳地域における複数地点間の雪面熱収支特性の比較

*西村 基志1佐々木 明彦2鈴木 啓助3 (1.信州大学大学院総合工学系研究科、2.国士舘大学文学部地理学教室、3.信州大学理学部)

キーワード:融雪、山岳地域、雪面熱収支

積雪や氷河の消耗過程に関する解析は,全球規模での気候変動に対する一つの指標となり,また,対象とされる雪氷圏は地球システムを理解する上でも非常に重要な領域の一つである.積雪の消耗過程に関する議論を行う際には,気象観測データを用いて積雪表面の熱収支を解析する手法が効果的であり,現在はこの手法が世界各地で広く用いられている.雪面熱収支の特徴は対象地域の気象条件に大きく影響を受けるため,その地点の気候や周辺の自然環境を反映しているとも考えられる.本発表では,日本の中部山岳地域における上高地,乗鞍高原および西穂高の3地点の雪面熱収支特性を明らかにし,日本の亜高山帯での季節積雪の消耗過程およびその特徴について発表する.
信州大学では自動気象観測装置を上高地 (1490 m a.s.l.),乗鞍高原 (1590 m a.s.l.) および西穂高 (2355 m a.s.l.) に設置しており,2016/17年冬季において熱収支法を用いて雪面熱収支の解析を行った.乱流フラックスの解析にはバルク法を用いた.
3地点の熱収支特性で共通していたのは,短波放射収支が最も大きなエネルギー源であり,また,長波放射と潜熱フラックスによって積雪層が冷却されていた点である.これらの特徴は,気温が低く,空気が乾燥していると言われる大陸性気候の地域や,標高の高い山岳地域でよく見られる特徴であり,日本の豪雪地帯と呼ばれる日本海沿岸地域とは異なった特徴である.
一方,3地点の異なった熱収支特性が見られたのは,積雪消耗期後期の熱収支特性に関してである.西穂高では上高地と乗鞍に比べて積雪期が長く (6月まで),消耗期後期の大気環境 (例えば,気温や比湿) および放射要素が他2地点とは異なる.それによって,西穂高では特異的な熱収支特性も見られた.
上記のように,地理的には近いが,異なる (または同じ) 標高帯での熱収支解析の比較を行うことにより,気象特性や地形などの周囲の環境による熱収支特性および,日本の亜高山帯での熱収支特性が明らかとなり,それぞれ類似した傾向と異なる傾向が見られた.今後は日本の積雪地における熱収支特性の地域特性に関する解析を進めることで,さらなる融雪プロセスへの理解を深める必要がある.