日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS20-P03] 山形県月山の積雪中に見られた高密度のクマムシ

*小野 誠仁1 (1.千葉大学)

キーワード:クマムシ、山岳地帯、積雪、樹林帯

クマムシは,緩歩動物門に分類される微小な無脊椎動物である.クマムシは極限環境耐性を持つことが知られており,体を小さな樽のように縮ませ無代謝状態(乾眠状態)になることで,高温や低温,高圧,放射線などに耐えることができる.山岳域からも生息が報告されており,日本では富士山や富山県の山岳をはじめとした,全国各地の山岳地のコケ中で報告されている.日本国内の高山帯では、冬の季節風の影響による多量の降雪がある.このような多雪地帯では,融雪期には藻類や昆虫類などの多様な生物が生息していることが明らかになっているが,積雪中のクマムシに関する報告はほとんどない.そこで本研究では,未だ報告の少ない日本国内の積雪中におけるクマムシの存在を明らかにすることを目的とした.
調査は山形県の月山の樹林帯で行った.月山は冬季に多量の積雪のある地域であり,日本有数の豪雪地帯である.調査は2018年4月から10月にかけて,積雪期に3回,無雪期に1回の計4回行った.樹林帯の積雪表面のサンプルを顕微鏡で観察した結果,ヤマクマムシ属のクマムシが多数含まれていることが明らかになった.積雪中からは,ヤマクマムシ属の1種のみが観察されたのに対し,積雪周辺の樹木のコケ中からはチョウメイムシ属の1種を含めた計2種が,秋の無雪期の樹木のコケ中にはさらに別の種を含めた計6種が観察された.このことは,積雪中で観察された1種は,低温環境で活動可能で,積極的に積雪中を生息場所とする種であることを示唆している.積雪中のクマムシの個体密度を求めた結果,雪氷藻類の繁殖する緑雪に個体が集中していることが明らかになった.クマムシは,藻類が含まれない白雪では全く観察されなかったのに対し,藻類が繁殖している緑雪では,平均7.1×103 ind L-1であった.クマムシの体長分布は5月から6月にかけて個体群全体で大きくなることを示し,クマムシの幼体は無雪期のコケ中でのみで観察された.以上のことから,このクマムシは,緑雪を形成する雪氷藻類を餌として積雪内で成長し,無雪期には樹木のコケ中で繁殖していると考えられる.このクマムシは,1年を通じてコケ中で生活する山岳地域のクマムシとは異なり,季節積雪を積極的に利用する生活史を持つ種であると考えられる.