[MIS20-P13] 9世紀後半に発生した赤石山地ドンドコ沢岩石なだれの堰き止め湖沼堆積物中における材化石群の発見とその意義
キーワード:赤石山地、岩石なだれ、堰き止め湖沼、材化石、古環境
赤石山地地蔵ヶ岳東面で発生した岩石なだれはドンドコ沢本川を3.6 km以上流下し,ドンドコ沢右支川と大棚沢の河道を閉塞して堰き止め湖沼を形成した(苅谷,2012;木村ほか,2018a)。これら2箇所の堰き止め湖沼・氾濫原堆積物中からは多数の材化石が発見された。Yamada et al.(2018)が酸素同位体比年代測定法を用いて材化石2個体(樹齢350年以上のヒノキ1個体と樹齢300年以上のツガ属1個体)の枯死年代を測定した結果,AD885年以降数年以内およびAD888年という年代値が得られた。これにより,ドンドコ沢岩石なだれは巨大海溝型地震の仁和地震が生じたAD887年か,その数年後以内に発生したことが明らかになりつつある。これらの材化石群の発見は,赤石山地周辺の古環境を知る上でも重要な意義をもつ。本発表では,先行研究(木村ほか,2018b, 2019)で同定した材化石試料41点の樹種組成により示された9世紀後半頃のドンドコ沢および大棚沢流域における古植生の特徴を報告する。
試料採取地はLLDおよびULDと命名した上述2箇所の堰き止め湖沼・氾濫原堆積物露頭である。LLDはドンドコ沢本川と大棚沢との合流点付近にあり,上流の集水面積は8.81 km2,標高は1220~2780 mに及ぶ。ULDはドンドコ沢右支川の谷出口付近にあり,上流の集水面積は1.17 km2,標高は1470~2630 mに及ぶ。2012年4月~2017年10月の期間に計41点(LLDで24点,ULDで17点)の材化石試料を採取し,各試料の樹種同定を行った。LLDで採取した試料24点には,ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)8点,ツガ属(Tsuga)7点,サワラ(Chamaecyparis pisifera)3点,カバノキ属(Betula)2点,カラマツ(Larix kaempferi),モミ属(Abies),トウヒ属(Picea),サワグルミ(Pterocarya rhoifolia)各1点が含まれていた。ULDで採取した試料17点には,ツガ属(Tsuga)8点,モミ属(Abies)4点,カラマツ(Larix kaempferi),ヤナギ属(Salix)各2点,ツツジ属(Rhododendron)1点が含まれていた。ツガ属はLLDで7点,ULDで8点産出し,それぞれの地点における採取試料の約29~47%を占めていた。また,ULDで出現しなかったヒノキ属2種(ヒノキ,サワラ)がLLDでは計11点産出し,採取試料の約46%を占めていた。
以上は限られた試料数の中での結果だが,ドンドコ沢岩石なだれが発生した9世紀後半頃,LLDが形成された大棚沢では樹齢350年を超えるヒノキおよびツガ属優占の老齢林が成立しており,もう一方のULDが形成されたドンドコ沢右支川では樹齢300年を超えるツガ属優占の老齢林が成立していたことが推定される。隣接する2流域でヒノキ属2種の出現頻度に顕著な差があった点は,当時よりヒノキ属2種の分布が大棚沢流域にとどまり,ドンドコ沢上流域には及んでいなかった可能性を示すものである。
引用文献:苅谷(2012)地形33, 297-313;木村ほか(2018a)日本地すべり学会誌55, 42-52;木村ほか(2018b)2018年日本地球惑星科学連合大会 MGI25-P09;木村ほか(2019)第四紀研究58, 65-72;Yamada et al. (2018) Quaternary Geochronology 44, 47-54.
試料採取地はLLDおよびULDと命名した上述2箇所の堰き止め湖沼・氾濫原堆積物露頭である。LLDはドンドコ沢本川と大棚沢との合流点付近にあり,上流の集水面積は8.81 km2,標高は1220~2780 mに及ぶ。ULDはドンドコ沢右支川の谷出口付近にあり,上流の集水面積は1.17 km2,標高は1470~2630 mに及ぶ。2012年4月~2017年10月の期間に計41点(LLDで24点,ULDで17点)の材化石試料を採取し,各試料の樹種同定を行った。LLDで採取した試料24点には,ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)8点,ツガ属(Tsuga)7点,サワラ(Chamaecyparis pisifera)3点,カバノキ属(Betula)2点,カラマツ(Larix kaempferi),モミ属(Abies),トウヒ属(Picea),サワグルミ(Pterocarya rhoifolia)各1点が含まれていた。ULDで採取した試料17点には,ツガ属(Tsuga)8点,モミ属(Abies)4点,カラマツ(Larix kaempferi),ヤナギ属(Salix)各2点,ツツジ属(Rhododendron)1点が含まれていた。ツガ属はLLDで7点,ULDで8点産出し,それぞれの地点における採取試料の約29~47%を占めていた。また,ULDで出現しなかったヒノキ属2種(ヒノキ,サワラ)がLLDでは計11点産出し,採取試料の約46%を占めていた。
以上は限られた試料数の中での結果だが,ドンドコ沢岩石なだれが発生した9世紀後半頃,LLDが形成された大棚沢では樹齢350年を超えるヒノキおよびツガ属優占の老齢林が成立しており,もう一方のULDが形成されたドンドコ沢右支川では樹齢300年を超えるツガ属優占の老齢林が成立していたことが推定される。隣接する2流域でヒノキ属2種の出現頻度に顕著な差があった点は,当時よりヒノキ属2種の分布が大棚沢流域にとどまり,ドンドコ沢上流域には及んでいなかった可能性を示すものである。
引用文献:苅谷(2012)地形33, 297-313;木村ほか(2018a)日本地すべり学会誌55, 42-52;木村ほか(2018b)2018年日本地球惑星科学連合大会 MGI25-P09;木村ほか(2019)第四紀研究58, 65-72;Yamada et al. (2018) Quaternary Geochronology 44, 47-54.