日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS20-P15] 山形県月山における雪氷藻類による彩雪現象の時空間分布とその決定要因

*鈴木 拓海1竹内 望1高橋 翼1 (1.千葉大学)

キーワード:雪氷藻類

山形県の月山山麓の樹林帯の積雪では, 雪上で繁殖する藻類によって, 赤や黄, 緑色に彩られた雪がよく見られる.このような彩雪現象の色や分布は, 積雪表面の物理的または化学的条件が関与していると考えられている.例えば,南極の積雪では,栄養塩濃度が高い富栄養環境では緑色の色素を持つ藻類が繁殖し, 反対に貧栄養環境では赤色の色素を持つ藻類が繁殖するということが知られている. しかしながら,日本国内の山岳地域の彩雪現象の時空間分布とその決定要因については,まだわかっていない.そこで本研究では, 彩雪現象の分布とその要因を明らかにするために, 融雪期の月山の積雪において,藻類バイオマスやその種類,栄養塩濃度の季節変化と高度分布について調査を行った.

 積雪の採取は, 2018年5月から6月の間, 月山の前山・姥ヶ岳の南側の尾根沿いの標高800mから1500mまでの7地点で2回にわたって行った.各場所で雪面から1cm程度までの積雪をランダムに一地点から適量採取した. 試料はワールパックに入れ, 研究室に持ち帰った後解凍した. 解凍した雪は, 蛍光光度計によってクロロフィルa量を,分光光度計によって抽出色素のスペクトルを,イオンクロマトグラフィー法によって溶存化学成分の測定を行った. また, 解凍した雪の一部は適宜顕微鏡で観察した.

 姥ヶ岳南側の尾根沿いの高度別の調査の結果,5月は緑雪のみが観察され,6月になると森林限界よりも上部で赤雪,森林限界よりも下部で橙雪が多く見られた.サンプルから抽出した色素の吸光スペクトルを分析した結果,5月,6月ともに二種類の波形が見られた.5月はどのサイトでも,大きな吸収は見られなかった.一方,6月は,森林限界より上部と下部において波形がわかれ,どちらも5月に比べて大きな吸収が見られた.彩雪中の藻類バイオマスは5月から6月にかけて,標高の違いによらず増加した.藻類の繁殖に必要な栄養塩である,硝酸イオンとリン酸イオンの濃度は,標高による違いはなかったが,5月に比べて6月の濃度は低かった.以上の結果から,積雪表面の栄養塩濃度の低下,および樹木の有無が,繁殖する藻類に影響し,それぞれ異なる色の着色現象を引き起こしている可能性が示唆された.