[MIS20-P16] 山形県月山におけるセッケイカワゲラの種と食性に関する研究
キーワード:昆虫、山岳域、雪氷生物学
雪氷環境には,雪氷生物と呼ばれる寒冷環境に適応した特殊な生物で構成される生物群集が存在する.日本の積雪上では,雪氷藻類と呼ばれる光合成微生物が繁殖し,その生産に支えられた動物やバクテリアが生息している.その雪氷生物の一つ,セッケイカワゲラは,積雪上で活動する昆虫の一種である.この昆虫は,一般的なカワゲラと同じように幼虫は河川で過ごす水生昆虫であるが,成虫は翅を持たないという特徴をもち,冬から春にかけて積雪上に現れる.日本でみられるセッケイカワゲラは,形態的な分類よって1科2属(Apteroperla属,Eocapnia属)30種に分けられている.セッケイカワゲラは,複数の種が同時に同じ積雪上で活動することが報告されているが,種や属による活動域や活動時期,食物の違いなどの詳しい生態はまだ明らかになっていない.そこで本研究では,多雪地帯で知られる山形県月山の積雪上で活動するセッケイカワゲラについて,属や種による分布域および食性の違いについて明らかにすることを目的とした.
調査は2018年4月,5月,6月の各月に1回ずつ行った.月山山域の姥ヶ岳(標高1487m)頂上付近から月山スキー場周辺(標高1130m)および志津野営場(標高770m)にかけて,計13地点の積雪表面でセッケイカワゲラの採集を行った.採取個体は千葉大学に持ち帰った後,顕微鏡を用いて形態に基づく種同定を行った.その後,各個体は乾燥器を用いて60℃で24時間以上乾燥させ,乾燥重量で約0.3mgの脚・触覚・尾・頭部を用いて,炭素窒素安定同位体比の分析を行った.分析は地球研の元素分析計,安定同位体比質量分析計を用いて行った.
採取した雄50個体を2属に分類したところ,Aperoperla属は標高1000mよりも高い場所に、Eocapnia属は低い場所に分布していることが分かった.セッケイカワゲラのδ15Nは,Aperoperla属とEocapnia属では,有意な違いはなかった(1.10~0.95‰ versus -1.63~1.05‰).このことは,2属の栄養段階はほぼ等しいことを示している.一方,δ13Cも2属の平均に有意な違いはなかったが(-26.2‰ versus -25.7‰),Aperoperla属のδ13CはEocapnia属に比べ,分散が小さいことが明らかになった(0.29‰ versus 3.00‰).このことは,Aperoperla属は限られた食性を持つ一方,Eocapnia属は様々なものを食べる広い食性を持っていることを示唆している.
調査は2018年4月,5月,6月の各月に1回ずつ行った.月山山域の姥ヶ岳(標高1487m)頂上付近から月山スキー場周辺(標高1130m)および志津野営場(標高770m)にかけて,計13地点の積雪表面でセッケイカワゲラの採集を行った.採取個体は千葉大学に持ち帰った後,顕微鏡を用いて形態に基づく種同定を行った.その後,各個体は乾燥器を用いて60℃で24時間以上乾燥させ,乾燥重量で約0.3mgの脚・触覚・尾・頭部を用いて,炭素窒素安定同位体比の分析を行った.分析は地球研の元素分析計,安定同位体比質量分析計を用いて行った.
採取した雄50個体を2属に分類したところ,Aperoperla属は標高1000mよりも高い場所に、Eocapnia属は低い場所に分布していることが分かった.セッケイカワゲラのδ15Nは,Aperoperla属とEocapnia属では,有意な違いはなかった(1.10~0.95‰ versus -1.63~1.05‰).このことは,2属の栄養段階はほぼ等しいことを示している.一方,δ13Cも2属の平均に有意な違いはなかったが(-26.2‰ versus -25.7‰),Aperoperla属のδ13CはEocapnia属に比べ,分散が小さいことが明らかになった(0.29‰ versus 3.00‰).このことは,Aperoperla属は限られた食性を持つ一方,Eocapnia属は様々なものを食べる広い食性を持っていることを示唆している.