日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] ガスハイドレートと地球環境・資源科学

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、八久保 晶弘(北見工業大学)、谷 篤史(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科)、後藤 秀作(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:八久保 晶弘(北見工業大学)、戸丸 仁

13:45 〜 14:00

[MIS21-06] 日本周辺海域の大気CH4濃度分布とガスプルーム

*青木 伸輔1小宮 秀治郎2登尾 浩助3松本 良4 (1.明治大学院農学研究科、2.マックスプランク研究所、3.明治大学農学部、4.明治大学研究知財戦略機構ガスハイドレート研究所)

キーワード:ガスハイドレート、ガスプルーム、メタン

海底からのメタン湧出は広く報告されてきたが,大気に放出されることを示した報告は北極海の水深の浅い一部の海域などに限られる.その他の多くの海域でメタンは大気に到達せず,海水中で分解されると考えられている.しかし,メタンハイドレートの安定領域内では海底から湧出したメタンの表面にメタンハイドレートの殻を形成する.メタンハイドレートの殻はメタンの海水への溶解を遅らせるため,海洋の浅い場所までメタンを効率的に輸送するシステムとなる.この輸送システムによって運ばれるメタンの量を明らかにすることは難しく,一部のメタンが大気へ放出する可能性が指摘されている.メタンは二酸化炭素と同様に温室効果ガスの1つであるため,大気への放出は大気中濃度の上昇に繋がり,気候変動の要因になりうる.一方で,大気中濃度の上昇が起きるのであれば人工衛星による観測からメタンハイドレートの賦存域を探索する際の一助となる可能性がある.本研究では大気メタン濃度の連続観測とガスプルームの観測,CTDによる水温プロファイル測定を実施し,海底から噴出するメタンの大気への影響を検討した.調査海域はガスプルームの報告がある日本近海(7K14と7K15航海)と,対照海域として太平洋(MR15-3,KH16-3,KH17-3航海)である.メタンハイドレートの安定領域上限はCTD観測による水温プロファイルと海水中のメタンハイドレートの相平衡曲線から海域ごとに見積もった.太平洋で観測した大気メタン濃度は地球全体の平均濃度よりやや高い1.9 ppmで推移し,経時変化はほとんどみられなかった.日本近海で観測した大気メタン濃度も1.9 ppm程度が最頻値で,最上トラフや網走沖でのみ,他の海域に比べて高いメタン濃度(>2.1 ppm)を示した.この両海域ではガスプルームが観察されたため,ガスプルームの大気への影響を捉えたものと考えられる.しかし,ほかのガスプルーム海域(十勝や日高–胆振沖)で観測されたメタン濃度はガスプルームが観測されなかった海域とほとんど変わらなかったことから,すべてのガスプルームが常に大気中濃度に影響しているわけではないことがわかった.高いメタン濃度を観測した最上トラフと網走沖の大気メタン濃度分布とガスプルーム観測地点を地図上に示すと,ガスプルームの近辺でのみ高いメタン濃度が観測された.しかし,同地点を通過する際に常に高濃度が観測されるのではなく,時間によって異なる濃度が観測された.これは海底から湧出するメタンが海流や洋上の風によって流されること,湧出するメタンの量が変化したことが原因と考えられる.水温プロファイルから見積もったメタンハイドレートの安定領域上限は網走沖や最上トラフでやや浅くなった.Heeschen et al. (2003)はガスプルームの高さが安定領域上限の水深に一致することを報告したが,網走沖で観測されたガスプルームは安定領域の上限より浅い水深にまで達することがあった.本研究の結果から,浅い水深のガスプルームだけでなく,メタンハイドレートの安定領域が海洋の表層に位置する海域でも海底から噴出するメタンが大気に到達することが示唆された.本研究は経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一部であり,産業技術総合研究所の再委託により実施した.7K14,7K15,MR15-3,KH16-3,KH17-3航海関係者に大変お世話になりました.ここに記して深謝いたします.