日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 海底~海面を貫通する海域観測データの統合解析

2019年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:有吉 慶介(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、木戸 元之(東北大学 災害科学国際研究所)、稲津 大祐(東京海洋大学)、高橋 成実(防災科学技術研究所)、座長:有吉 慶介木戸 元之

10:15 〜 10:30

[MIS24-06] 海底から海洋を見上げ地球内部を覗き込む

★招待講演

*深尾 良夫1 (1.地震津波海域観測研究開発センター/海洋研究開発機構)

キーワード:海底観測、水圧計、アレー観測



表1は自身も関わった海底観測の最近の成果をまとめたものである。これら観測は地震学研究者によってなされたものだが、得られた成果の半分以上は、津波、長周期重力波(IG波)、内部潮汐波、内部ボアなど海洋現象に関するものである。残りが超低周波地震、極浅部定常微小地震活動、海底ゆっくり変動など固体地球現象に関する成果である。この事実は、特に海底観測においては海洋物理学分野と地震学分野との共同研究が重要であることを示す。ここでは表1のトピックスの中から本セッションの趣旨に沿った研究例を紹介し、今後の発展を議論したい。



研究例

No. 2. 青ヶ島東方沖海底に展開した圧力計アレー(A-array)に記録された分散性IG波を地震波(表面波)伝播のコードを用いて逆伝播させ波源域を探索した研究。逆伝播結果と第3世代波浪推算モデル(WW3)のIG波への拡張版とを組み合わせることにより、青ヶ島に入射するIG波が遠く南米西海岸で生まれ太平洋を横断して到来した(北半球の夏)ことを明らかにした。IG波は海底地形とカップリングして固体地球側に常時地球自由振動を励起する能力を持つことから、この研究は地震学にも貢献することが期待される。



No. 2. 宮城県沖海底に設置した新型水晶式3成分加速度計及びBBOBSの傾斜成分出力を用い平均して月4回発生する傾斜イベントを捉えた。これは斜面に沿って海溝側から陸側に海底が傾斜する現象であるが、これが実際には海底の傾斜運動ではなく、海底斜面に沿って陸側に進む内部孤立波の通過(ボア)によって測器の支柱が傾く現象であることを明らかにした。これは、期間限定ながら流速測定・温度測定等の海洋物理観測を傾斜測定と並行したことによって初めて得られた結果であり、海底地震観測の際に海洋物理観測装置を付設することの有用性が示された。



No. 6. 青ヶ島東方沖海底圧力計アレー(A-array)を用いて内部潮汐波の励起源付近における挙動を明らかにした研究。検出された内部潮汐波は青ヶ島の海底斜面に沿って海側に進行する伝播性の成分と節が斜面に固定された定常振動の成分とからなる。この解釈は、潮汐現象を取り込んだ海洋循環モデル(JCOPE-T)から抽出した内部潮汐波の挙動と非常に整合的である。JCOPE-Tは海底圧力観測との比較だけでなく、海底下の反射構造探査記録を再解析して得られる海洋内部の音響反射断面図を解釈するのにも有用である。本研究は地震学的観測と海洋物理学的シミュレーションとの組み合わせが成果をもたらした良い例と考える。



No.11. 鳥島はるか東方沖の海底水圧計アレー記録を用いて、伊豆小笠原海溝近傍における時間スケール数千秒・変動量数センチメートルのゆっくりした海底上下変動の検出を試みている。今回は、アレーのごく近傍に発生した小地震をきっかけに始まった海底面の上昇運動の検出を報告する。こうしたゆっくりイベントは、潮汐変動や大気圧変動に由来する超長周期・大振幅の大きな海底圧力変動に隠されて、その信号の抽出が一般に困難である。ここでは大気・海洋起源の大きな圧力変動成分を除去し、固体地球変動成分を取り出す手法について議論する。



議論

以上の限られた経験をもとに、海洋物理学研究者と地震学研究者との可能な連携を考える。例えば(No. 2)からは、(日本のDONETやS-Net及びカナダのNEPTUNEなどの)海底ネットワーク水圧計出力を用いて、太平洋のIG波の波動場を準リアルタイムでモニターすること、その結果を海洋物理学分野の波浪+IG波の波高分布モデリングや、グローバル地震観測網から抽出した常時地球自由振動場と比較し、固体地球と海洋地球と繋ぐことが考えられる。(No. 3)からは、ボアの発生を検知した深海底に海洋観測装置をアレーで長期展開することにより、よくわかっていない深海底におけるボアの生成伝播の実態が明らかになると期待される。(No. 6)からは、DONETやS-Netの海底水圧計群の外部潮汐・内部潮汐情報をJCOPE-Tのようなシミュレーションモデルに取り込んで海洋モデルを逐次改良するなどして、海底ネットワークと海洋シミュレーションモデルとの定常的な連携発展を図る。(No.11)からは、こうしたシミュレーションモデルを用いて大気・海洋起源の大きな海底圧力成分をできるだけ除去し、固体地球起源の海底変動の有無を検出しやすくすることなどが考えられる。今後は、海洋物理研究者と地震学研究者が当初から共同して海底観測に臨むケースが増えると予想される。