日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 近年の気象災害:要因とその大気水圏・人間圏への影響

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 301A (3F)

コンビーナ:西井 和晃(三重大学大学院生物資源学研究科)、座長:西井 和晃(三重大学)

11:00 〜 11:15

[MIS25-02] 台風21号による琵琶湖高解像度流動シミュレーション:琵琶湖南湖における大規模水草消失

★招待講演

*中田 聡史1芳賀 裕樹2岩木 真帆1波多野 圭亮3馬渕 浩司1高村 典子1 (1.国立環境研究所、2.滋賀県立琵琶湖博物館、3.水資源機構)

キーワード:琵琶湖、水草、流動シミュレーション、台風

昨年(2018年)9月4日に「非常に強い」勢力(カテゴリー5)の台風21号(Jebi)が日本に上陸し、近畿地方を中心に大きな被害を与えた。琵琶湖南湖においては1961年の第二室戸台風以来となる異常に大きな水位変動が観測され、水草(主に沈水植物)が大規模に消失した。南湖では近年、水草が大量に繁茂する年があり、湖底の泥化や水質と底質の悪化等が懸念されているが、水中の栄養塩を吸収する水質浄化やコイ・フナ類の産卵場といった良い面もあり、琵琶湖水環境にとって水草消失は重大なインパクトがあるだろう。将来気候において台風凶暴化が予想されており、水草の流失メカニズムを理解することは重要である。そこで本研究では、台風21号襲来時における発生した水位異常変動の再現するため琵琶湖内の流動シミュレーションを実施して大規模水草消失の原因を調べた。シミュレーションに用いたモデルはFVCOM(Finite-Volume Community Ocean Model)であり、入力データは気象庁提供の気象データGPV/MSM、および国土交通省提供の瀬田川洗堰放流量と流入河川流量である。計算期間は8月28日から9月10日までの2週間として、8月下旬の現場観測水温場を与えた静止状態から計算開始した。計算検証用データとして11地点の琵琶湖水位データを関係機関から収集した。シミュレーション結果は水位の異常変動をよく再現しており(観測と計算データの相関係数0.9以上)、台風接近後の水位が顕著に下がった時には、南湖のほぼ全域において強流帯(流速が1m/s以上)が形成されていたことがわかった。この計算結果を用いて底面せん断応力と水草流体抵抗力を計算したところ、底面せん断応力は洗堀を起こさない程度に小さかったが、水草にかかる流れの抵抗力は水草群落が大きい場所で高い値を示し、水草の消失分布と極めて似たパターンを示した。これらの結果から、強い水平流によって水草に圧力抵抗が働いた結果、水草が流れに耐え切れず根本から引き抜かれて流されたことが推察される。したがって、湖面風が平均して20m/s程度の南風である場合、水草が流失する可能性が示唆された。