日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 近年の気象災害:要因とその大気水圏・人間圏への影響

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 301A (3F)

コンビーナ:西井 和晃(三重大学大学院生物資源学研究科)、座長:西井 和晃(三重大学)

11:15 〜 11:30

[MIS25-03] 結合モデルで予測された半年以上継続する2018年北半球中緯度高温偏差

*小林 ちあき1石川 一郎1 (1.気象研究所)

キーワード:2018夏、北半球中緯度温暖現象、北極振動

日本では、2018年7月初めに西日本を中心に各地で記録的な大雨となり(Tsuguchi et al, 2018)その後、東・西日本を中心に異常高温が続いた。東日本の夏季平均気温は1946年の統計開始以降最高を記録した(気象庁, 2018)。このような猛暑をもたらした要因の一つとして、北半球中緯度で東西平均気温偏差が高温であったこと、があげられている(気象庁, 2018)。この北半球中緯度域の高温偏差に着目し、気象庁現業季節予測システム(JMA/MRI-CPS2; Takaya et al., 2018)による実験結果を用いて、この偏差の形成と継続についての要因を考察した。
200hPa高度場を対流圏気温の指標とし、2018年夏季平均の平年偏差分布をみると、北半球中緯度域は広く高温偏差に覆われた。特にモンゴルから中国北部にかけてと、アラスカ湾、ラブラドル半島付近とスカンジナビア半島南部では正偏差が大きかった。帯状平均高度場で見ても北半球中緯度域は正偏差が顕著であり、時系列でみると、この北半球中緯度の正偏差は2017年秋ごろから続いている現象であった。
この半年以上継続する北半球中緯度正偏差は、2017年10月を初期値とした結合モデルによる再予測実験において再現されており、6か月以上前の初期値からの予測にもかかわらず、大気偏差場をよく予測できていた。
2017年の終わりから2018年の春にかけて、太平洋赤道域の海面水温は、ラニーニャタイプの偏差を示しており、その後、2018年夏にかけてENSOは中立になったが、春から夏にかけて赤道の北半球側で正偏差、南半球側で負偏差となりの偏差パターンが続いており、モデルはこれもよく予測できた。このSSTパターンが大気偏差場に与える影響を調べるため、熱帯太平洋域のSSTを気候値にナッジングした実験を行った。この実験(感度実験)と再予報実験との差をみると、予報初期から2018年夏にかけて、北半球中緯度高度は再予報実験より低くなっていた。再予報実験では赤道の北側で対流活発が持続したこともよく予測された一方で、感度実験では対流活発偏差が弱かった。これは、再予報実験で見られた顕著な北半球中緯度正偏差の形成に熱帯太平洋域のSST偏差が対流活動の偏差を通じて重要な役割をはたしていたことを示唆している。