日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 化学合成生態系と熱水・湧水・泥火山

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 201B (2F)

コンビーナ:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、浅田 美穂(国立研究法人海洋研究開発機構)、座長:土岐 知弘Robert Jenkins(金沢大学)

14:30 〜 14:45

[MIS28-04] メタン湧水炭酸塩岩の局所Sr同位体比分析:地質時代の湧水の起源解明に向けて

★招待講演

*宮嶋 佑典1Michał Jakubowicz2,3平田 岳史1 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.Institute of Geoecology and Geoinformation, Adam Mickiewicz University, Poland、3.Isotope Laboratory, Adam Mickiewicz University, Poland)

キーワード:炭酸塩、流体循環、LA-MC-ICP-MS、メタン湧水、ストロンチウム同位体

メタン湧水は大陸縁辺域でテクトニクスに伴う流体移動によって湧出し、海底に化学合成生態系を繁栄させてきた。湧出する水はその起源や湧出経路に応じた元素・同位体組成をもつため、海底下での水と岩石の相互作用や物質循環を知る手がかりとなる。メタンの湧出場では、メタンが微生物に消費されて炭酸水素イオンを生成することで炭酸塩が沈殿する。この炭酸塩は過去に湧出していた水の元素・同位体組成を記録しているため、湧水起源の炭酸塩の元素・同位体組成を使って地質時代の湧水の起源や移動経路を推定することが試みられてきた(Jakubowicz et al., 2015, 2019など)。
 ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)は流体循環や水–岩石相互作用のトレーサーの1つであり、湧水炭酸塩の研究にも応用されてきた(Peckmann et al., 2001; Joseph et al., 2012; Jakubowicz et al., 2019)。湧水炭酸塩は、粘土や砕屑粒子に富むマトリックスと砕屑物を含まない空隙セメントを主とする複雑な組織を呈することが多い。セメント部には海底面付近の堆積物の影響のない、湧水由来のSr同位体組成が保存されていると考えられるが、ミリメートルスケール以下のセメント部をマトリックスの混入なしにマイクロドリルでサンプリングすることは従来困難であった。そこで本研究では、炭酸塩セメントから堆積物の影響のない過去の湧水由来の同位体組成を検出するため、レーザーアブレーション-多重検出器型誘導結合プラズマ質量分析計(LA-MC-ICP-MS)を用いた高空間分解能なSr同位体比分析を行った。LA-MC-ICP-MSにより、モロッコの中部デボン系Hollard Moundとチェコ共和国の下部白亜系Baškaで採取された湧水炭酸塩のリムセメントのSr同位体比を測定した。その結果、マイクロドリルでサンプリングし表面電離型質量分析計を用いて測定された値(Jakubowicz et al., 2019)と整合的な同位体比が得られた。また、北海道の上部白亜系前弧海盆堆積物(蝦夷層群)より産出する冷湧水炭酸塩を対象に、放射状セメントのSr同位体比を測定した。蝦夷層群はジュラ系~下部白亜系の塩基性岩を基盤とし、湧水に深部の基盤岩由来の流体の寄与があれば、湧水炭酸塩は87Srに乏しい同位体比を示すと期待される。北海道の1産地(学校の沢)の炭酸塩の測定結果は、同時代の海水よりも87Srに乏しい値を示し、深部流体の寄与が示唆された。今後北海道のその他の白亜系湧水炭酸塩からも、87Srに乏しい同位体比を検出することで、白亜紀のユーラシア大陸縁辺の沈み込み帯における海底下深部での流体循環を読み解く手がかりが得られると期待される。