日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD44] 将来の衛星地球観測

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 302 (3F)

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、金子 有紀(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)、座長:浅井 和弘(東北工業大学)、木村 俊義(宇宙航空研究開発機構)

11:15 〜 11:30

[MSD44-08] 衛星搭載水蒸気分布観測用差分吸収ライダー(DIAL)の技術実証

*阿保 真1長澤 親生1柴田 泰邦1内野 修2柴田 隆3 (1.首都大学東京大学院システムデザイン研究科、2.国立環境研究所、3.名古屋大学)

キーワード:差分吸収ライダー、水蒸気、衛星搭載

世界的な水蒸気分布データの質の向上は、長期の気候変動解析と短期の数値予報のどちらにも有用である。現在の水蒸気計測は、地表面や船での直接測定、ラジオゾンデ観測、地上リモートセンシングシステム(ライダー、分光計、GPSによるトータル量測定)、衛星による受動的な赤外線とマイクロ波センサーによる測定が行われているが、地表面観測は鉛直方向のカバーレンジが、ラジオゾンデと地上リモートセンシングでは水平方向のカバーレンジが、受動センサーでは鉛直分解能に問題がある。さらにこれらを組み合わせたとしても、上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域が生じる。したがって、現状ではグローバルな水蒸気循環を精度よく定量的に評価するには、精度、鉛直分解能及びカバーレンジとも不足している。

地球の3分の2が海であることから、宇宙からのリモートセンシングが水平、垂直及び時間分解能を確保する唯一の方法である。しかし、従来は大気の循環を決める風と温度の計測が優先され、水蒸気の計測は進んでいない。現在の数値モデルでは、対流圏の1kmの層を1.5Kの精度で再現できるが、対照的に比湿の6時間予報値の相対誤差は20-40%になる (English 1999) 。全地球大気モデルの鉛直分解能は境界層附近の100mから成層圏の1kmの間にあるが、現在のリモートセンシング水蒸気観測データはこれより荒く、逆に水蒸気や雲はしばしばこれより狭い層構造を形成する。

衛星搭載水蒸気差分吸収ライダー(DIAL: Differential absorption lidar)は以下のような特徴がある。①高精度、低バイアス、高鉛直分解能で水蒸気の高度プロファイルが地上から上部対流圏、下部成層圏まで得られる。②水蒸気の各高度プロファイルにエラープロファイルが得られる。③低温領域で測定が困難なラジオゾンデと異なり、どんな温度領域でも湿度が得られる。④光学的厚さの小さい雲では、雲底から雲頂までの水蒸気プロファイルが得られる。⑤水蒸気、雲頂高度、エアロゾルの光学的厚さ、境界層高度などの情報が同時に得られる。⑥他のリモートセンシング測定法では問題となる、他のパラメータの影響(例えば表面の放射率、温度プロフィール、他のガスの濃度、エアロゾル)に鈍感であるため、他の赤外線やマイクロ波のパッシブリモートセンシング機器の校正に利用できる。これは、特にモデルのバイアス誤差の検出に有効となる。⑦厚い雲の雲頂より低高度は測定できない。⑧高い水平分解能・時間分解能データは軌道直下のみという制約がある。このように制約はあるが他の測定法にない特徴が多くあるため、相補的な利用が有効である。

水蒸気のライダーによる観測手法としては、これまで波長760nm及び820nm付近の吸収線を利用した水蒸気DIALの開発が行なわれてきた。NASAではLASEとして航空機搭載水蒸気DIALの実用化が行われ、多くの成果を得ている(Browell et al. 1998)。また、ESAではWALES(Water Vapour Lidar Experiment in Space)と呼ばれる衛星搭載水蒸気DIALが提案されたが、現時点で具体的な計画はない。我々(Nagasawa et al. 1995)もこれまで、この波長帯を利用した航空機搭載水蒸気DIALの開発をJAXAとともに行なってきた。また、Wulfmeyer and Walther(2001)は波長945nmまたは1.4μmの吸収線を用いた航空機水蒸気DIALを提唱した。これは、波長が長い程水蒸気の吸収が強いことを利用して希薄な水蒸気の測定を可能にする近赤外領域まで感度の良い光検出器が実用化されてきたことと高出力なレーザーが開発されてきたことに連動している。

衛星搭載と対流圏界面高度の水蒸気量の観測を考慮した場合は、レーザーの効率が良く、かつより吸収量の大きい945nm又は1350nm付近の吸収線を利用した水蒸気測定用DIALを提案する。測定誤差のシミュレーションより高度分解能1km、地表付近から高度20kmまで、3つの吸収線を用いることにより誤差10%以下で計測可能である。また、ライダーで技術的に最も困難なレーザー光源については、1.57μmのCO2-DIALの技術で開発したOPG/OPA技術の採用を提案する。このレーザーは世界的にもトップクラスの技術である(Shibata et al, 2017)。

衛星搭載水蒸気DIALでは以下のような成果が期待できる。①現在十分信頼すべき十分なデータの無い上部対流圏・下部成層圏領域における水蒸気の高精度、高鉛直分解能観測による気候フィードバックの理解とモデル化の進展、②全地球域の高品質データによる数値予報の精度向上、③集中豪雨、竜巻、台風などの予報精度の向上。

参考文献

Browell, E.V., et al. Appl. Physics B, 67, 399-410, 1998.

English, S.J., J. Appl. Meteor.,38, 1526-1541, 1999.

Nagasawa, C., M. Abo, T. Sugisaki and O. Uchino, SPIE 2581, 161, 1995.

Shibata, Y. et al., Appl. Opt., 56, 1194-1201, 2017.

Wulfmeyer, V. and C. Walther, Appl. Opt.,40, 30, 5321, 2001.