日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD44] 将来の衛星地球観測

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、金子 有紀(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

[MSD44-P09] 衛星搭載植生ライダー(MOLI)

*浅井 和弘1平田 泰雅2鷹尾 元2下田 陽久3本多 嘉明4梶原 康司4粟屋 善雄5須﨑 純一9遠藤 貴宏6松永 恒雄7澤田 義人7杉本 伸夫7西澤 智明7水谷 耕平8石井 昌憲8木村 俊義10今井 正10林 真智10境澤 大亮10室岡 純平10三橋 怜10 (1.東北工業大学、2.森林総合研究所、3.東海大学、4.千葉大学、5.岐阜大学、6.リモート・センシング技術センター、7.国立環境研究所、8.情報通信研究機構、9.京都大学、10.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:ライダー、樹冠高、森林構造、森林バイオマス、L-バンドSAR、イメージャ

ライダーは送信機にパルス・レーザを用いた光波レーダの総称であるが,衛星搭載ライダーは軌道上から地表面に向けて照射した光パルスの往復時間から精密な地盤高計測や森林の林冠高および三次元森林構造計測が可能となる。本文は、炭素循環や気候変動メカニズムにとって重要な役割を演じる地上部森林バイオマス(以下、AGB: Above Ground Biomassと称す)を地球規模で把握することを目的とした日本初の衛星搭載植生ライダー(MOLI: Multi-footprint Observation Lidar and Imager、以下MOLIと称す)ミッションの提案である。
ISS-JEM搭載MOLIミッションの目的はライダーの宇宙実証として、レーザ高度計の機能性能を十分に発揮して、高い精度でAGB評価に必要な林冠高/三次元森林構造情報を取得できる植生ライダーの確立を目指すと共に、MOLIデータをL-band SAR (ALOS-2/PALSAR-2等) データやGCOM-C/SGLIなどのパッシブ分光データと融合して、現状では信頼性が劣る高密度な熱帯林域でのAGB算出精度を飛躍的に高め、究極的に全球のAGB推定の高精度化のためのアルゴリズム開発を目指し、将来の実用衛星への指針を得ることにある。
ここで提案するMOLIライダーは、地表面傾斜に起因する林冠高計測での誤差低減を目的に、傾斜角度および方位角を自己決定できる機能を有している。パルス・レーザの出力光は、二分割された後に地表面に一対のフットプリントとして照射される。地上での各フットプリント径は25m、フットプリント間隔は約50mφ@along-track、約43m@cross-trackとなる。傾斜角度および方位角は、レーザショット毎、地上にalong-track方向に連続的に出現する多数のフットプリント対の中から、近接した3フットプリントに対する軌道-地上間の往復時間の差より求められる。送信出力は20mJ/パルス/フットプリント、繰り返し150Hz、パルス幅7nsec。受信系光学系の口径は0.45mφ、検出器は二次元Si-APD、A/D変換は帯域幅500MHz、12bit-Digitizer。同時搭載の高解像度イメージャは、R/G/NIRバンド、swath幅1000 m、地上解像度5 mで構成されており、林冠のサイズ、高さ、および圃場データに関する情報等を取得する。林冠高の計測精度は、地表面傾斜角<30度で<±3m(<15mの森林)あるいは<±25%(>15mの森林)。AGB観測精度は、<±20t/ha(<100t/haの森林)、<±25%(>100t/haの森林)をそれぞれ目標とする。現地調査は森林管理(台帳作成)にとって大事な作業であるが、熱帯林域では幾多の困難に出くわす。我々の試算によれば、MOLIの実現によりAGB現地調査回数・調査費用を1/2 (ρ2 = 0.5の場合、ρ2 :地上調査からMOLI推定値への回帰の決定係数)~1/5 (ρ2 = 0.8)、最大1/10 (ρ2 = 0.9)と劇的に削減の可能性がある。送信レーザはパルス光なので、当然のことながらAGB観測はalong-trackに沿った離散的な2列のフットプリント列となる。MOLIの短所としては、光センシングのために天候に大きく影響される。
一方、L-band SAR (ALOS-2/PALSAR-2等)は全天候観測が可能なためリアルタイムでの変化の抽出に優れているが、とくに近年、斜め観測によるデータの歪みの補正方法が改善されて以来、山岳地での森林解析精度も上がりSARは大いに期待されている。半面、L-band SARは高密度な熱帯雨林すなわち、南米アマゾン流域、アフリカのコンゴ地域、東南アジア地域での熱帯林からの受信後方散乱信号は150t/h以上のAGBで飽和してしまう。その他、国内の閉鎖した成熟林では使えない、急峻な山岳地では不可視域による観測精度が劣化し、湿地林やマングローブでは水面による2回反射のためにバイオマス推定値が過大に評価されるなどの問題点がある。したがって、MOLIとSARが有する各々の長短所を有効に利用してそれぞれを補完することにより、高密度な熱帯雨林域でさえAGB観測精度を高められる。
さらにMOLIの実現は、ALOS-2/PALSAR-2を利用した森林減少の早期警戒システムであるJJ-FASTにとっても非常に有効な活用が期待できる。この伐採検出システムは森林減少面積の計測に注力を注いでおり、AGB計測の機能は有していない。MOLIデータとの融合は、伐採箇所の炭素放出量をも精密に算出可能となるであろう。