日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD44] 将来の衛星地球観測

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、金子 有紀(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

[MSD44-P11] 陸域植生のSIF・PRIモニタリングのための高空間・波長分解能観測衛星の開発

*野田 響1大政 謙次2彦坂 幸毅3市井 和仁4小林 秀樹5加藤 知道6村岡 裕由7 (1.国立研究開発法人国立環境研究所、2.東京大学、3.東北大学、4.千葉大学、5.国立研究開発法人海洋研究開発機構、6.北海道大学、7.岐阜大学)

キーワード:植生リモートセンシング、太陽光励起クロロフィル蛍光、キサントフィルサイクル

陸域生態系の植物の光合成量(一次生産量)の時空間変動の詳細かつ広域的な把握は,気候変動下の大気—生態系間の二酸化炭素(CO2)交換量の監視,その知見による温暖化緩和策および適応策の策定,さらにそれら成果の評価に不可欠である。地球観測衛星は広域の生態系の構造と機能を把握する強力なツールであり,これまで,衛星観測により得られる正規化植生指標(NDVI)等の情報から一次生産推定が試みられてきた。しかし,これらの指標は植物の緑葉量を表すのみであり,気象に応じて日々変化する光合成活性の変化を反映せず,大きな不確実性を伴っていた。一方,近年,高波長分解能衛星センサーの登場により,光合成過程の中心である光化学系から発せられる微弱な光,いわゆる太陽光励起クロロフィル蛍光(Solar-induced chlorophyll fluorescence, SIF)の観測が可能になった。SIFは従来の植生指数よりも直接的に光合成活性を反映するとされている。また,光合成過程の光化学系では,キサントフィルサイクルが余剰なエネルギーを熱として放出する役割を果たす。キサントフィルサイクルの状態はPhotochemical Reflectance Index(PRI)と呼ばれる光学指標により生理学的理論に基づいて評価することができる。個葉レベルでの最新の研究では,光合成速度を推定するモデルにおいて,SIFとPRIの同時測定データの有効性が証明されている(Hikosaka and Noda 2019)。衛星観測スケールにおいても,光合成の生理学的メカニズムに基づいた一次生産量推定モデルの構築が必要とされる。しかし,衛星によるこれら2指標の同時観測は行われておらず,ESA(欧州宇宙機関)が2022年に打ち上げを予定しているFLEXミッションで計画しているのみである。さらに,現行衛星での観測は,いずれも植生以外の観測を主目的としたセンサーによる副次的な観測に過ぎない。そのため,空間解像度が非常に粗く,地上観測サイトでの微気象学的手法によるフラックス観測との間に大きなスケールギャップがあり,衛星観測SIFおよびPRIによる光合成活性の推定の大きな壁となっている。

本提案では,陸域植生のSIFおよびPRI,さらにNDVIをはじめとする従来の植生指数について,同時・同一視野で,かつ前例のない高空間分解能での観測をする新たな地球観測衛星の開発を提案する。この新規衛星で得られるデータと地上観測フラックスデータ等を融合し,高精度な一次生産量の推定モデルの構築を行い,全球の陸域植生に応用する。