日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD44] 将来の衛星地球観測

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、金子 有紀(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

[MSD44-P14] 超伝導サブミリ波リム放射サウンダSMILES-2の衛星搭載性検討

*落合 啓1バロン フィリプ1入交 芳久1西堀 俊幸2鈴木 睦2鵜澤 佳徳3前澤 裕之4真鍋 武嗣4齊藤 昭則5塩谷 雅人5 (1.情報通信研究機構、2.宇宙航空研究開発機構、3.国立天文台、4.大阪府立大学、5.京都大学)

キーワード:衛星観測、中層大気、超高層大気、マイクロ波観測、極低温冷凍機、風観測

超伝導サブミリ波リム放射サウンダSMILES-2は、太陽非同期の低軌道衛星に搭載し、サブミリ波のリム観測で中層から超高層大気の温度、風、大気成分を包括的に観測するミッションである。現在、JAXA宇宙科学研究所の公募型小型計画に対応した衛星計画として提案している。SMILES-2が実現すれば、高度分解能2.5 kmから5 km程度で、対流圏界面から下部熱圏(高度150 km程度まで)の温度分布、上部成層圏(30 km程度から)から下部熱圏の水平風分布、さらに、成層圏から中間圏に存在する水蒸気、オゾン、その他の微量成分の分布、下部熱圏の酸素原子の分布を、毎日、全球に近い領域で観測することができる。さらに、太陽非同期の衛星軌道により、1.5ヶ月から3ヶ月で24時間分のローカルタイムの大気を観測でき、日周変動成分を把握することができる。
大気パラメータの日周変動を捉えることがSMILES-2のもっとも重要な目標であり、それに必要な衛星軌道、観測精度、観測周波数帯域等を検討した。その結果、観測要求を満たすSMILES-2ミッションは、638 GHz帯、763 GHz帯と、2 THz帯の超伝導受信機を持ち、軌道高度550 km、軌道傾斜角66度の衛星に搭載し大気リムが観測できる仕様のものと考えている。リム観測は、軌道に沿っておよそ690 kmおきに太陽とは逆方向の大気を鉛直方向にスキャンする。水平風の風向・風速を得るために同じ大気を8分程度の時間をおいて2方向から観測する。これにより1日で約830点の鉛直プロファイルを取得する。期待される観測精度は別の発表にまとめられている。とくに風の観測精度は、それぞれの高度の典型的な日周変化の振幅と同程度かそれより少し良い程度と見積もられている。観測精度を良くするには、サブミリ波受信機の感度を高くするか、時間空間分解能を落とす必要がある。SMILES-2では積算できる観測データの数はそれほど多くないので、受信機感度を高くすることは必須である。SMILES-2に搭載することを考えている超伝導受信機は、サブミリ波ヘテロダイン受信機しては最高の感度をもつ受信機である。
SMILES-2は、2009年に国際宇宙ステーションのきぼうに搭載した超伝導サブミリ波リム放射サウンダのJEM/SMILESで培った技術を利用する。JEM/SMILESは、サブミリ波超伝導ヘテロダイン受信機を機械式冷凍機だけで冷却して地球観測に用いた初めてのミッションで、約半年間の観測に成功した。4 Kに冷却する機械式冷凍機の、宇宙での長期間運転実績は日本にないが、地上試験では4年以上の寿命が実証されている。JEM/SMILESの地上試験で、冷凍機の消費電力は153 W程度、JEM/SMILESペイロードは320 W程度が得られている。きぼうでの実験における消費電力の制約に比べると、SMILES-2で想定する小型衛星(宇宙研の公募型小型計画の衛星)での消費電力の制約はたいへん厳しい。SMILES-2が取る軌道の小型衛星では、ミッション部で常時利用できる電力が、軌道の日陰率が高い時期で323 W程度と見込まれている。JEM/SMILESの地上試験での消費電力より大きなリソースだが、SMILES-2ミッション部には、JEM/SMILESペイロードには含まれていなかったデータ通信系やデータレコーダなどが含まれるので、必要とする電力は大きい。その上、受信周波数のバンド数を増やすことによる冷凍能力の増加があり、3年から5年の運用を想定した場合、冷凍機の効率低下を補償するように入力電力を大きくする必要があるため、冷凍機の消費電力も大きくなると予想される。
SMILES-2の衛星搭載可能性においては、開発費用等に関する問題と共に、電力収支が成り立つかが最大の課題と考えている。冷凍機の消費電力を低く抑えることが重要であり、そのための検討を行っている。冷凍機メーカによる冷凍機やクライオスタット設計に関する検討の他、極低温部への熱流入の少ない超伝導受信機構成の開発や、放射冷却を利用してクライオスタット等を低温にする衛星システムの設計などである。また、冷凍機以外のSMILES-2ミッション部の機器の電力についても削減策を検討することで、トータルで電力収支を成立させることはできるだろうと考えている。
上記の課題を解決した上で、SMILES-2をJAXA宇宙科学研究所の次の公募型小型計画の募集に対して提案する予定である。