日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT48] 地球化学の最前線

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)、横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)

[MTT48-P06] 泥炭ウイグルマッチングを用いた高精度14C年代決定

*宮入 陽介1近藤 玲介2横田 彰宏3重野 聖之3冨士田 裕子4横山 祐典1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.皇學館大学 教育開発センター、3.明治コンサルタント株式会社、4.北海道大学 北方生物圏フィ-ルド科学センタ- 植物園)

キーワード:放射性炭素年代測定、ウイグルマッチング、テフラ

湿地帯に発達する泥炭堆積物は、炭素を多く含むため放射性炭素年代測定が容易である。しかしながら、泥炭は有機物が生物遺体ではなく、生物遺体の分解変質した物質を主とするため、炭素の供給起源が2次的であるという堆積年代を年代推定する上での不確実性がある。泥炭が堆積するような嫌気的な環境では生物擾乱が生じにくい。さらに堆積速度が大きく変化しないことが多い。たとえ堆積速度に変化を生じたとしても、地層累重の法則により、下層の堆積物ほど古い堆積物あることが担保されているため、放射性炭素濃度の変動周期より十分短い年代間隔で試料採取を行えば、高精度年代決定が可能となる。
 Blaauwら(2003,QSR)は、泥炭層の堆積速度が一定期間変化しないと仮定すれば、暦年較正曲線と連続サンプリングした放射性炭素年代値を比較して(ウイグルマッチング)最適な堆積速度及び堆積年を推定できることを示した。本手法は泥炭堆積物中に含まれる津波堆積物の高精度年代決定への応用が試みられている(例えば、Ishizawa etal.,2017,QG)が、年代既知の層準を用いた確度の検証はなされてこなかった。そこで、本研究では、歴史記録により噴火年代が明らかなテフラ包含層を泥炭ウイグルマッチング法により年代を求め、その年代決定精度を検証することを目的とした。
 本研究では、北海道北部の猿払川湿原において採取されたボーリングコア試料を用いて、泥炭試料を用いた湿原堆積物の高精度放射性炭素年代決定法を検討した。分析に用いた試料は北海道大学と中心とする研究グループが、北海道宗谷郡猿払村の猿払川周辺に発達した湿原で行ったボーリング調査にて採取されたコア試料である。本研究ではその中でも猿払川中湿原で採取されたコア試料「試料名:HU-SRN-1」を用いた。同コアは海岸線から約10 km内陸にある猿払川中流域(北緯45°11’ 59” ,東経142°9’ 03”)で2015年11月に掘削された。全長は31mであるが、本研究では、そのコアの最上部のみ(深度0-1m)の試料を用いた。
同コアは深度57cmに、樽前火山起源のテフラ樽前火山(Ta-a)テフラを含む。Ta-aテフラは、樽前火山の1739年噴火に伴って堆積したテフラで、その噴火時期は、文献記録によって、1739年8月から噴火開始したことが記録されており、テフラの堆積時期が正確に判明しているテフラを含む試料を用いることで泥炭ウイグルマッチング法の年代決定精度を検証する。
 泥炭コア試料を1cm間隔でサンプリングを行った。サンプリングはTa-aテフラの上下層を含むように深度41~95cmまでの1cm間隔でサンプリング、均質化のち、2cm毎に試料を放射性炭素分析を行った。前処理は1M HCIで酸処理を行った。試料をエレメンター社製元素分析計「キューブミクロ」を用いて酸化した。酸化後の真空ラインを用いて、CO2ガスを精製した。東京大学大気海洋研究所高解像度環境解析センター所有のシングルステージ加速器質量分析計(YS-AMS)をもちいて14C濃度を測定した。得られた放射性炭素年代値を用いて、泥炭の堆積が連続して生じたと仮定した場合に、各測定層準の年代値と実年代の差が最小になる堆積速度を求めた。
Ta-aテフラの含まれる層準の堆積年代は、泥炭ウイグルマッチングによる暦年較正の結果と歴史記録から求められる年代の差は数十年以内であった。本コアのTa-aテフラ直下の泥炭のみから求めた暦年較正値は1670-1950calBP(1σ)であり、従来の手法では、Ta-aテフラの噴火年代が江戸時代中期以降以降であることしか特定できないが、泥炭ウイグルマッチング法での年代は十分な時期決定精度があるといえる。
 Ta-aテフラ層の泥炭ウイグルマッチングによる暦年較正の結果を歴史年代と比較すると、歴史年代とわずかな違いであり、本手法の確度は非常に高いことが示唆される。この結果は、本手法がテフラ層や津波堆積物等イベント性堆積物の高精度年代決定に有効な手段であると考えられる。