日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

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[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P23] 50年後の熊本は・・・。~珪藻・花粉分析からの海水準変動予測~

*山下 鮎人1、*古田 詩乃1 (1.熊本県立天草高等学校)

キーワード:海水準変動、珪藻分析、花粉分析

<研究の背景>
私たちの住む天草は近年、地球温暖化による海水温の上昇により、サンゴの白化や南からの生物の流入など海の変化が発生している。また、地球温暖化による海面上昇が近い将来には問題になることも、ツバルなどの他の国々の状況を学ぶ中で知った。そこで、過去の有明海周辺の海水準変動の結果から将来の海水準変動を予測し、温暖化による海面上昇から天草を守るために研究を行った。

<研究の目的>
本研究の目的は2つある。1つ目は、天草における過去の海水準変動の解明。もう1つは、50年後の天草を含む有明海周辺の海水準変動の未来予測である。

<コア概要>
上天草市松島町合津、阿村でのハンドボーリング試料を10㎝間隔でサンプリングし、合津をKZ、阿村をKMとした。年代は、文献調査および放射性炭素年代測定によりそれぞれ図1のようになった。

<研究方法>
本研究は珪藻分析、花粉分析の2つを行った。珪藻分析は1試料200個体鑑定し、ダイアグラムなどの作成を行った。花粉分析はマツを除く木本類200個体を鑑定し、ダイアグラムの作成およびモダンアナログ法による古気温と降水量の算出を行った。加えて、珪藻分析、花粉分析の結果による考察だけでなく、郷土史などの歴史的資料を使った考古学的な考察も行った。この3つの手法を併用することにより、珪藻分析では水域、花粉分析では陸域の古環境の変化が分かり、環境変化による人間生活への影響が解明できる。

<結果>
珪藻分析では以下のような結果が得られた。全体的に、海水性種で内湾指標種のParalia sulcateと淡水性種であるCyclotella litoralisの2種が多く産出した。さらに、Tryblionella granulateが鑑定した全試料で産出した。
花粉分析では以下のような結果が得られた。シイ類(Castanopsis sieboldii)、カシ類(Lithocarpus glaber, Quercus salicina Blume, Quercus sp, Quercus phillyreoides)が約80~90%と高い割合を占めた。さらに、モダンアナログ法により産出した気温は16.0~17.4℃の中で変動し、KM-11~10にかけて1℃上昇。降水量は約1800~2200㎜の値の中で推移していた。

<考察>
花粉分析の結果から天草では照葉樹林帯が形成されていたと考えられる。さらに、珪藻分析、花粉分析、郷土史、年代これらを複合的に考察すると、図4で示した結果となった。
①約7700~6500年前に海水性種の割合が非常に高かったことから縄文海進があった
②約500年前に海水性種の割合が低く、気温が0.7℃低下していたことから小氷期があった
③天草では大雨、洪水、干ばつなどが多発した時期があった(本研究ではこれをKM‐10問題と名づけて、郷土史などの調査を行い、考察を行った)

<天草の海水準変動>
珪藻分析で産出した、Tryblionella granulateは現地性の干潟指標種であり、佐藤(2014)よりこの珪藻が産出した地点は堆積当時の海水面を示すと言われている。この珪藻を使って過去の海水準変動を推測した。

<未来予測>
Tryblionella granulateが産出した地点が堆積当時の海水面を示すことと年代を考慮に入れると過去の海水準上昇速度を求めることができる。500年前から93年前までの海水準上昇速度は平均すると、0.18cm/年と分かった。KM-7から試料最上部にかけて海水面が2.5cm上昇していたことから、この間は14年間となる。KM-7から試料最上部にかけて気温は0.15℃上昇していたことから、このときの気温は平均して0.011℃/年と分かった。よって、この時の海水面の上昇と気温の上昇の関係は16.7cm/℃と分かった。
 IPCC(2018年)の報告で、2030年までに気温が0.5℃上昇した場合、気温は平均0.042℃/年の速度で上昇し、50年後に気温は2.1℃上昇することになる。これに本研究の結果である16.7cm/℃を考慮すると、海水面は34.7cm上昇すると考えられる。また、2052年までに気温が0.5℃上昇した場合、気温は平均0.015℃/年の速度で上昇し、50年後に気温は0.73℃上昇することになる。よって、このとき海水面は12.2cm上昇すると考えられる。

<結論>
以上のことから、本研究の結論として以下の3つが挙げられる。1つ目は、約7700年前からの有明海の変遷を明らかにしたこと。2つ目は、天草における小氷期に気温は約0.7℃低下したこと。3つ目は、50年後の海水面は現在よりも最大で34cm高くなること。この3点である。

<今後の展望>
今後は、海水面の上昇による砂浜の消失面積の算出を行っていきたい。また、天草は中緯度地域に属しているため、世界的に見ると平均的な海水準変動が起こっていると考えられる。これを応用して高緯度地域の50年後の海水面の上昇についても検討を行っていきたいと考えている。