日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

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[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P24] ため池における管理負担を低減した低水位管理方法の提案

*福嶋 陸斗1、前田 菜緒1、米山 玲緒1、髙橋 侑希1、田畑 陽彩1、林 晃太郎1 (1.兵庫県立加古川東高等学校)

キーワード:ため池、低水位管理、洪水調節、生態系保全

動機・目的
近年、農業の衰退や都市化などにともない,ため池の需要やため池管理者が減少している。こうしたことから,ため池の放置が進んでいる。また老朽化に伴い,ため池の廃止も進んでいる。しかしため池には,近年増加している異常気象の被害を低減するとして注目されている洪水調節機能や生物の生息地としての役割がある。そこで,これらの機能を保持した,新たなため池利用法として,「低水位管理」を提案し,その有効性を実証する。

研究対象の決定
本研究では,研究対象として,加古川市近郊にある農業使用外ため池である源太池を選んだ(図1)。この源太池は,ため池の本体である堤体,堤体の一部を切り下げて余分な水を池から安全に流す施設である洪水吐,池から取水する施設である斜樋,斜樋を囲っている土砂吐ゲートから成っている(図2)。斜樋は現在手動で開閉することでため池の水を取水できる。また,源太池には上流から一定の流入がみられる。

検証1
源太池のレベル測量をおこない縦断面図を作製し,これに基づいて,低水位管理をおこなった際の,洪水調節容量の現状との差を検証した。洪水調節容量とは,雨水を貯留できる容量のことであり,水面から洪水吐までの高さに,満水位面積をかけて求められる。検証の結果,現状は満水位状態であるため,洪水調節容量は0[m3]であるが(図3),低水位管理として水位を0.5[m]下げると仮定すると,洪水調節容量は1500[m3]に増加した(図4)。

検証2
低水位管理による洪水調節容量の増加がどれほど洪水防止に貢献するのかを検証した。雨が降った際の放流量の推移を加藤(2002)の式を用いて求め,現状の管理と低水位管理とで比較した。解析対象として,フィールドワークをおこなった日の付近で最大降水強度40mm/hを観測した2018年7月29日の降雨を用いた。検証の結果、低水位管理後の最大放流量は,現状の最大放流量と比較して約20%低下することがわかった(図5)。洪水調節容量が増加して最大放流量が減少したことから,ため池の低水位管理は有効であるといえる。

検証3
具体的な低水位管理方法として,ため池の底にある取水施設である斜樋と,それを囲う土砂吐ゲートの利用を提案する。しかし,現在の源太池の土砂吐ゲートは水面近くまで達しており,現状のまま低水位管理をおこなおうとしても土砂吐ゲートまでしか水位が下がらないため,低水位管理が不可能である。そこで,土砂吐ゲートの高さを低水位管理をおこなう際の水面の高さに切り下げることで,常に斜樋を開けたままでも,容易な低水位管理が可能になる(図6)という仮説を立て,平常時と降雨時に分けて検証をおこなった。
まず,平常時のため池への流入量と斜樋からの放流量を求めた。流入量は現地調査の結果から5.2×10-3〔m3/s〕と算出した。次に放流量は模型実験の結果から、1.2×10-2〔m3/s〕と算出されたことから、平常時は流入量より放流量のほうが多いため低水位管理が可能になると考えられる。同様に降雨時の流入量は、2年確率の降雨4.3×10-2〔m3/s〕を加えると,放流量が流入量よりも小さくなり,水はため池に貯留されるため,検証2で求めたように最大放流量が減少することから洪水調節機能をもつと考えられる。以上より斜樋と土砂吐ゲートを用いた管理方法は防災的観点で有効であることがわかった。斜樋は手動であるが,今回の提案では,斜樋は常に開けたままでよく,管理負担を大きく減らすことができる。

検証4
手柄山温室植物園と協議し、低水位管理をおこなった際の生態系への影響を考察した。
低水位管理による懸念の1つ目として,悪臭やボウフラの発生が挙げられるが,水位を低く保つことで水中の酸素濃度が増加し,悪臭の原因である嫌気性微生物の活動が抑制されるため,ため池を低水位管理しても悪臭は発生しないことがわかった。また,ボウフラの発生原因は水が滞留することであるが,我々の提案する管理方法では斜樋からの放流により水は循環するため,ボウフラも大量発生しない。
また,懸念の2つ目として,現在の生態系に悪影響が及ぶ可能性が考えられる。しかし現地調査の結果,現在源太池にはジュズダマやオギなどの植物やアオモンイトトンボなどの水生昆虫が生息していることがわかった。これらは本来浅瀬を好むため,低水位管理は現在の生態系への悪影響は少ないといえる。もし,ため池を埋め立てると,客土に付着した外来種の侵入によりため池の生態系が破壊されてしまう。しかし,我々の提案する低水位管理方法ではそれは起こり得ない。
結論
この低水位管理方法は防災的観点や生態系の保護の観点から有効であり,かつ今までよりも負担なく管理できることを示した。