日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P47] 古狩野湾の復元

*小島 蒼太1、*久保田 真央1、*米山 夏生1、*山本 貴之1、*渡邉 充司1 (1.静岡県立韮山高等学校)

キーワード:ウバメガシ、縄文時代

Ⅰ 研究背景

 伊豆半島北部にある田方平野には、縄文海進により「古狩野湾」と呼ばれる海が広がっていた。その海岸線を復元する研究は行われてきたが、我々はその精度を向上させるべく研究を行っている。海岸線を復元する際には地形やボーリング調査の結果から行うことが通例であるが、我々は遺跡の分布やウバメガシの分布からの復元を試みた。

先行研究ではボーリング調査の結果から、土壌の硫黄濃度を測定する方法、ケイソウの種類を調べる方法、土壌の電気伝導度を調べる方法、の三つから陸成層と海成層を判別し海岸線の特定を試みている。1923年に発生した関東大震災において被害の集中した関東平野の低地は田方平野と同様に縄文時代は海であり、軟弱地盤地帯であった。そのため、当時の海岸線を復元することで地下数十メートル下にある軟弱な地盤の存在を予測でき、減災に役立つことが期待できる。

Ⅱ 研究内容 
遺跡による復元
 QGISを使用して、縄文時代から弥生時代までの遺跡の分布を調べ、地図にまとめた。

時代が進むにつれて山間部から平野部に遺跡が移動している。重要なことはこれまで海とされていた平野部に縄文時代の遺跡がなく、海が引き始めた年代から平野部へと遺跡が移行していることである。これにより、縄文時代の田方平野は非居住地域であったことが推測される。

2 ウバメガシによる復元
分布調査
ウバメガシは平地での生存競争に弱く、海岸線の岩場を好んで生息する植物である。しかし、田方平野には内陸部であるのにも関わらずウバメガシのコロニーが存在する場所がある。そこで、内陸部に存在するウバメガシを、縄文海進とともに内陸に進出し、その後の海退により取り残されたものだと仮定し、調査を行った。

田方平野全域と伊豆半島西海岸でフィールドワークを行い、ウバメガシのサンプルを新たに沿岸部で12ヶ所、内陸部で27ヶ所採取した。ほとんど全ての内陸部のウバメガシが沿岸部に似た崖や岩地などの植物の生息しにくい環境で生息していることが確認できた。 
DNA調査
ウバメガシが海退により取り残されたものであると仮定すると、現在の沿岸部のコロニーとは6000年間にわたり隔絶されてきているため両者のDNAに何らかの違いが生じている可能性がある。その変化を見つけるために我々は内陸部と沿岸部のウバメガシのDNAを比較し、内陸部のウバメガシが縄文海進により取り残されたものであると証明することを試みた。

冷凍されたサンプルを粉末状にしDNeasy Plant Kitsを用いてDNAの抽出を行い、PCR法によって増幅を試みた。

Matk、trnH-psbA、atpB-rbcLを使用した。増幅後に電気泳動を行い各サンプルのDNAの比較を行った。すべてのサンプルにおいてバンドを出すことはできなかったが内陸部の守山と沿岸部の牛臥山の泳動結果にわずかながら差があるように見える。しかし、抽出したサンプルのDNA濃度が非常に小さく他のサンプルでの比較や再現が行えなかった。そこでDNA抽出キットを変え実験を行った。6箇所のサンプル(枯野公園、水晶山、白山堂、黄金崎、南蔵、長浜城)に対し、Lysis Solution SLSを使用しDNA抽出を行った。そのサンプルに対しDNAの確認実験を行った。

結果としてすべてのサンプルにおいてDNAの存在を示すバンドが見られた。

DNAの抽出には成功したが、すべてを増幅するまでには至らなかった。原因としてはDNAの濃度や不純物の混濁が考えられる。一部のDNAでは差異が見られた。塩基配列の解析やPCRの条件を検討するなど、さらなる遺伝子の解析が今後の課題である。

3ボーリング調査

先行研究と国土地盤情報検索サイトから精査すると、正確な南限は神島以南の水晶山付近である断定できる。

Ⅲ 結論

今回、多くのウバメガシのコロニーを発見することができたため、より細かく海岸線を推定できるようになった。先行研究では白山堂付近が南端であると推測したが、白山堂以南にウバメガシが多く生息していたため古狩野湾の南端は水晶山付近、もしくは水晶山以南であると今回の研究では推測した。また先行研究と今回の研究結果から海岸線は図のようになると考えられる。

Ⅳ  今後の展望

 分布調査では南限と推定した水晶山付近の調査をさらに行うことでより詳しく海岸線を推定できると思われる。新たなサンプルではDNAの存在を確認することができ、比較ができる可能性が高いので、すべての配列でPCR条件の検討を行い遺伝子の解析をさらに進める必要がある。また、田方平野における堆積物の厚さや隆起や沈降を調べ当時の地形を再現していくとともに、先行研究で行われているボーリング調査の結果と比較し、我々がとった手法が海岸線を知るための指標として用いることができるかを検討していきたい。

Ⅵ  参考文献

Genetic variation and structure of Ubame oak, Quercus phillyraeoides, In Japan revealed by chloroplast DNA and nuclear microsatellite markers

Ⅶ  謝辞

多大な協力を賜りました伊豆半島ジオパーク推進協議会事務局専任研究員 鈴木雄介様 、
国立遺伝学研究所 黒川顕様 豊田敦様 に深く御礼申し上げます。