日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

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[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P60] 2017年12月11日茨城県沖で発生した巨大ジェットの発光の時間変化と過去の同現象との比較

*山下 直也1、*平野 慎1、*松山 隼1、*大窪 佑弥1 (1.静岡県立磐田南高等学校)

キーワード:巨大ジェット 、対流圏

1.動機・目的

 2017年12月11日22時47分13秒に本校から北東方向に設置したカメラにより高高度発光現象の一種である巨大ジェットを観測した.巨大ジェットは非常に発生頻度の低い現象であるため,この巨大ジェットの形態や成因を,発光の時間変化や気象条件,過去の巨大ジェットと比較させて解明することにした.



2.巨大ジェットとは

巨大ジェットは雷雲上空から中間圏にかけて発生する高高度発光現象の一種で,下端は高度約20km,上端は70~90㎞の逆円錐型の発光現象である.巨大ジェットはスプライトやエルブスなどの他の高高度発光現象と比較すると,非常に発生頻度の低い現象であるため不明な点が多い.



3.方法

高感度CCDカメラ(WAT-100N)で撮影された巨大ジェットの画像を,動体検知ソフトによりパソコンに自動記録をする.次に,高高度発光現象の共同観測ネットワークを介して,他観測点にて同時観測された同一巨大ジェットの観測記録から,三角測量の原理を用いて巨大ジェットの発生地点や高度を特定する.



4.結果

4-1 発生地点,高度

著者らが観測した巨大ジェットは,青山学院大学相模原校舎の段毛毛氏との同時観測であったので2観測点の仰角と方位角から巨大ジェットの発生地点を特定した.この結果,巨大ジェットは茨城県沖(北緯35.57°,東経139.40°)で発生し,その上端高度は66.3kmであることが分かった.さらに発光の強度や特徴から,この巨大ジェットを図1のとおり以下の5つに分けた.

A 高度 5~19km 下部で細い柱状に強く発光する部分

B 高度10~45km Aの上部で放射上に発光する部分

C 高度30~40km BとDの間に見られる発光のない部分

D 高度36~53km Eの下に見られる強く光る発光部分

E 高度44~69km 放射状に広がる非常に強く発光部分

次に動画のコマ送りにより発光に時間変化を分析した結果,図2のとおり巨大ジェットは単純に地上から上空に向かって発光するのではなく,まず上部のD,Eが発光し,一旦発光が弱まったあと,再び下部のAからEにかけて強く発光することがわかった.その後,最下部Aの積乱雲内の雲内放電と考えられる発光が継続する.また,巨大ジェットの上昇速度は240km/sであることも分かった.

4-2 気象条件との比較

気象条件の比較では,天気図より同日9時~15時で寒冷前線が通過したこと,衛星写真や雨雲レーダーより18時から22時の間に太平洋上空で雨雲が急速に発達したことが分かった.しかし,巨大ジェット発生地点に最も近い水戸の記録をみても降水が全く無かった.また,図3のとおり,スプライトは20時から翌日1時の間に関東沖で11件発生していたが,巨大ジェット発生時間帯の22時30分から23時では発生はなく,落雷も2件のみだった.さらに,対地雷の分布をみると,図4のとおり巨大ジェット発生前までは対地雷は周辺で多発しているが,巨大ジェット発生時間帯には対地雷はなく,巨大ジェット発生後は巨大ジェット発生地点で対地雷が発生していることが分かった.



5考察

今回発生した巨大ジェットと過去に磐田南高校が観測した3回の巨大ジェットとを比較した結果が,表1である.全ての巨大ジェットの共通点は,いずれも発生時期が11月下旬から12月中旬にかけての気圧配置が西高東低型の冬型で発生前に寒冷前線が通過していること,対地雷がなく発生前後に雨量がほぼないことである.以上から,海上に当たる強い日射と寒冷前線の通過により,積乱雲は成長したが,積乱雲内では落雷や降水による電荷の解消が起こらなかったために,積乱雲内に莫大な電荷が蓄積された.これが引き金となって,積乱雲内から電離圏にかけて次々と電荷が誘導され,これらの間で連鎖的に放電が繰り返されて,巨大ジェットが発生したと考えられる.

2010年11月と12月の巨大ジェットとの共通点は,発生地点がいずれも海上で発光時間が6/60秒~8/60秒,形状が一体状であることから,今回のジェットはこの2つのジェットとほぼ同じタイプと考えられる.ただし,上端高度か66.3kmと低く,発生地点が日本海側ではなく,太平洋側であることがこの2つのジェットと異なる.





6.結論

2017年12月11日22時47分13秒に茨城県沖の北緯35.57°,東経139.40°の海上付近から最高度66.3kmで発生した巨大ジェットを観測した.この巨大ジェットの発生前には寒冷前線が通過していたが,発生地点の付近や発生時刻の前後には,落雷が少なくスプライトなどの高高度発光現象も無かったことから,対流圏における大量の電荷の蓄積と雲内放電が原因と考えられる.