日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P61] 静岡市清水区の海長寺のボーリングコアに基づく後期完新世の環境変化の復元

*伊奈 朋弥1、*鈴木 大介1、*蔦原 敬登1 (1.静岡県立磐田南高等学校)

キーワード:地震性隆起、駿河南海トラフ、後期完新世、清水平野、層相解析

1.動機・目的

駿河トラフの西岸(静岡市~御前崎市)は,フィリピン海プレートの沈み込みにより,6~8mm/年の速度で沈降しているが,西暦1854年の安政東海地震では約1mの隆起が起きた (石橋,1984;Katamura&Kobayasi,2014).1970年代に,安政東海地震から120年間も経過しているので,近い将来,東海地震が発生するとされた.その後の研究では1707年の宝永地震や1498年の明応地震で駿河トラフ西岸が隆起した証拠は得られず,安政東海地震のような駿河トラフ西岸を隆起させる地震(以後,安政型地震)の発生間隔は依然として不明である.そこで,本研究では,静岡県静岡市清水区の海長寺(図1)の地層記録から後期完新世の環境変化を復元し,安政東海地震の履歴を検討した.

2.方法

海長寺において,海岸線に対して垂直及び平行な測線の地層分布調査を行い,2本の14mボーリングコアを掘削した.コア試料は半裁し,堆積物と含有化石の記載,軟X線写真の撮影,柱状図の作成を行った.7試料の植物片の14C年代測定をBata Analytic社に依頼した.また採取したコア試料を1cmごとの裁断,保存した.裁断したコアは粒度組成,CNS比の測定に用いた.粒度組成はφスケール5~-1のふるいを用いて,粒径ごとの質量を計量,粒径から沈降速度を求めた.試料を10mg計量しC.N.S元素分析をふじのくに地球環境史ミュージアムにて行った.

3.結果

3-1. 地中レーダーによる測定

地中レーダーで平行に調査した測線間では地層の傾斜が見られなかった.一方,垂直に行なった測線では陸側から海側にかけて深度1~2mで傾斜が見られた.

3-2. ボーリングコアの記載

図2は地点1.2の柱状図である.両地点ともに,堆積構造,粒径,色に基づいて3つの層に分けられた.下位より,貝化石を含む灰色の砂礫層,貝化石を含む灰色の粘土層,陸生の砂礫層が見られた.粘土層と砂礫層の境界は明瞭であった.

3-3. 14C年代測定

地点1の深度4.21mの粘土層から産した葉の試料,地点2の深度2.10mの木片密集層から産した葉の試料について14C年代を測定すると,それぞれ西暦398~539年,西暦258年~428年を示した.

3-4. 貝化石の同定

地点1では粘土層から潮間帯に生息する巻貝であるUmbonium moniliferum(イボキサゴ)を産した.その他にも地点2の砂層で多くの貝化石が産出し,Umbonium moniliferum(イボキサゴ)やBatillaria multiformis(ウミニナ)などの潮間帯に生息する巻き貝が見られた.

3-5. 粒度分析

 地点1,2の砂礫層と粘土層の明瞭な境界において,その直上の砂層,直下の粘土堆積物,そこから5㎝離れた堆積物の計8試料について行った.沈降速度を比べると,粘土層と砂層の間には明らかな差が見られるため,境界を境に堆積環境が大きく変化している.

3-6. CNS元素分析

地点1,2のそれぞれにおいて,粘土層と砂礫層の明瞭な境界の直下の粘土層の堆積物及び,その5cm下と10cm下の粘土層の堆積物において,各2試料ずつ,計12試料の分析を行った.その結果,C.N.S元素分析から推定できる堆積環境は汽水域から内湾である.

4.考察

地点1,2の粘土層について,①地点1では潮間帯に生息する巻貝であるイボキサゴが産出したこと,②C.N.S元素分析のCN比,CS比の結果より汽水から内湾環境で堆積したと解釈されることから,堆積環境は内湾の干潟であると考えられる.また,潮間帯に生息する巻貝を産する粘土層と木片密集層の葉の14C年代は,それぞれ西暦398年~539年と西暦258~428年を示す.したがって,陸化した時代は,西暦398年から西暦428年の間の可能性が高い.この時代に汎世界的海水準の低下は起きていないので,陸化は堆積作用か地震性隆起のどちらかである.地震性隆起の場合には,安政型地震が発生したことになり,南海トラフの歴史地震の中で最古の西暦684年の白鳳地震よりも280年古い.

5.結論

地点1の深度4.20m(標高0.25m),地点2の深度3.60m(標高0.20m)に粘土層と砂層の明瞭な境界があり,その下位の粘土層の堆積環境は内湾の干潟であると考えられる.

放射性炭素年代測定より調査地点の浜堤は西暦398年から西暦428年の間に堆積した可能性が高い.調査地点の浜堤が陸化した原因は,地震性隆起である.

6.参考文献

石橋克彦(1984);第四紀研究,23,105-110 ;Kitamura&Kobayasi (2014)The Holocene, 24 814-827 ;松原彰子(1989) 地理学評論, 62,A-2, 160-183;Kitamura (2018) Marine Geology 405 114-119;Sampei et al (1997) Geochemicalournal;藤原治 他 (2008) 活断層・古地震研究報告,No.8,p.163-185.;寒川旭 (1995) 日本文化財科学会誌,29-43;静岡県埋蔵文化財調査研究所 (1988) 原川遺跡Ⅰ;静岡県埋蔵文化財調査研究所 (1992) 坂尻遺跡