日本地球惑星科学連合2019年大会

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[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P64] 平尾台 広谷湿原 土壌硬度と水の起源を探る+ラムサール条約

廣田 毬子1、*伊東 勇人1、*安部 夏生1 (1.東筑紫学園高等学校)

キーワード:平尾台カルスト、広谷湿原、土壌硬度、安定同位体、生物多様性、ラムサール条約

1,はじめに
私たち理科部は1993年、カルスト台地、平尾台(写真1)を研究するため設立され、2001 年より、カルスト台地にあるはずのない広谷湿原について、成因・増減・再生の観点から研究を行っている。

昨年度は以下の3点に注目して研究を行った。

・土壌硬度による湿原境界の数値化

・安定同位体による水の流動分析

・ラムサール条約登録活動・・・平尾台+広谷湿原の保全活動


2,成因
地表に水はないはずのカルスト台地になぜ湿原が存在するのか。そして、その湿原がなぜ維持されているのか。広谷湿原は、カルストならではの「広谷の穴」に本流の水を奪われたことによる『三日月湖的存在』であると考察し、流量観測、遷急点後退跡の測量からこれを証明した。2016年の3月、これらの成因から国の重要湿地に登録された。


3,増減
湿原の境界は植生から検討されることが多いが、面積測量とドローンを使った生物学的植生調査を比較することで、地学的測量でも湿原を表現できることを証明した。1994年から2010年までの測量の結果、湿原が半分以上も減少した。原因は1998年の県の保全工事と考えた。現在は再生活動が効果を上げ、2017年の面積測量の結果、2010年と比較して湿原は105%復活した。(図1)


4,再生活動
人間がずらした湿原の時間軸を元に戻すのは人間の責務と考え、「里山的手法」を元に、湿原下流側の石積み、上流側の堰板のメンテナンスを行っている。石積みは地下水面を上昇させ、堰板は北の沼地を広谷湿原の地下水の涵養源にする効果がある。

さらに、2011年からは福岡県保健環境研究所のご指導の下、「かきおこし」を行っている。かきおこしは、草原性植物を刈り取り、土壌をひっくり返し、地中に眠っている湿性植物の種子を復活させる試みで、人為的撹乱とも言える。その結果、湿原の植物種が大きく増加し、生物の多様性復活に大きく貢献した。さらに堰板で地下水管理を行うことで、かきおこし区の地下水位が上がり、湿原の復活が見られた。広谷湿原の不透水層が残っていたためと考えている。


5,土壌硬度による湿原境界の数値化
土壌硬度によって湿原と草原の境界を数値化しようと、2017年の測量から山中式土壌硬度計を用いて、湿原境界の調査を行った。草原と湿原の境界は7mm(約80kPa)程であると考えたが、より普遍的なものにするため、大分県のラムサール条約登録地タデ原・坊ガツル湿原でも2回調査を行い、植生による土壌硬度のグラフを作成した。さらに、釧路湿原のデータもグラフに追加している(図2)。計測の結果、草原と湿原の土壌硬度の境界値は8~9mm(8mm=約90kPa)となり、広谷湿原での境界値の妥当性が証明できた。測量という地学的アプローチによる湿原研究が大きく前進したと考えている。


6,安定同位体による水の流動分析
広谷湿原にある水の起源を調べるため、安定同位体を用いて水の分析を行った。北九州大学の原口先生のご厚意により広谷湿原周辺5ポイントの水の同位体比を分析していただいた。その結果から雨水に対して世界共通の線である天水線と広谷湿原の相対比のグラフを作成した(図3)。最小二乗法による近似線を引くと、天水線とほぼ傾きの等しい直線が得られたため、広谷湿原の地下水は雨水由来のものだと分かった。さらに近似線の切片から、7ヶ月前の雨ではないかと考察した。しかし、このような考察で良いのか不安であったため、東北大学で20年以上安定同位体を研究されている山田先生にご教示をいただいた。動的分別が関係して複雑な上、この分析の幅では詳しい考察はできない、とご指摘を受けた。やはり、分析機器を扱えない高校生が安定同位体を研究することは困難であると痛感した。


7,ラムサール条約登録活動
応用生態学の観点から平尾台と広谷湿原のラムサール条約登録活動を行っている。ラムサール条約は生物多様性に関連した、幅広い国際条約で、世界的には2,260ヶ所の登録地のうち122ヶ所がカルスト関連で、日本では山口県の秋吉台が登録されている。

ラムサール条約登録には地元の賛同が一番重要な条件である。理科部は2011年から県主催の広谷湿原自然観察会に計18回参加し、地元の方々に湿原について説明をする他、市主催のイベントや各企業でプレゼンをし、協賛や後援をいただいている。2017年8月には北九州市議会で陳情を行うことができた。高校生の陳情は初とのことで、マスコミ各社に取り上げられ、地元の方々に登録活動を広く知っていただくことができた。この陳情をきっかけに北九州市と福岡県もラムサール条約登録に向けて正式に動き出した。2021年の登録を目指して、今後も様々なアピール活動をしていきたい。誰にも相手にされなかった、高校生の国際条約への挑戦が実を結びそうである。そして広谷湿原も、その保全に大きく前進しそうである。