日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-03] 高校生によるポスター発表

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O03-P80] 日本海における海流・海水温とダイオウイカの移動の関係
-深海生物の生息分布予想に向けて-

*小池 悠佳1 (1.広尾学園高等学校)

キーワード:気象、海洋

ダイオウイカとは世界最大級の無脊椎動物で、深度650m~900mに主に生息していると考えられている。日本では主に小笠原諸島周辺、日本海近海での生息が確認されている。しかし発見されている個体数が極端に少ないことから詳細な行動や生息分布についての研究は進んでおらず、ダイオウイカに対する移動経路・生息分布の予測は発見場所から大まかな移動経路を予測しているものの、定量的な解析がほぼ行われていない。

 そこで本研究では地形データをもとにダイオウイカの移動経路・生態分布を特定することで今日までに行われている研究よりもさらに定量的にそれらを予測することを目的とする。最終目的は現在研究の進んでいない生物の、生物種によらない行動予測・生息分布特定を行える体系的な手法の確立である。

 本研究では以下の二方向から研究を進める。

 第一に海流と海水温のデータと発見場所を照らし合わせ、経路や分布について複数面から解析を行う。今回はGoogle Earth Engine (以下GEE)を用いて衛星から得られた海流と海水温のデータを地図上にマッピングし発見場所のデータと照らし合わせる。ダイオウイカの発見場所のデータについては2014年1月から2015年3月にかけて日本海側でダイオウイカが頻繁に発見された際の座標データを用いる[1]。発見場所のデータは一度Google my mapを用いて可視化を行う。これまでの研究では各データの採取場所の深度のばらつきを考慮し、海流・海水温について全て表層のデータを使用し大域的な予測を行った。海流データはHSV色空間に置き換え、色相で海流の方向、明度で海流の速度を表記した。結果、海流については全個体57体が海流の速度がほぼない、もしくは遅い領域で発見された。海水温に関しては全個体57体中48体が比較的海水温の低い領域で発見された。これよりダイオウイカは極端に食料の少ない深海でエネルギー消費を抑えるために海流の遅い領域に存在し、また深層に比べて比較的生物量の多い表層まで浮上していたところを捕獲されたと考えた。しかしGEEの操作が不十分だったため定量的な予測が行えなかった。そこで今回は地点毎の海流の速度と海水温を取得する方法を用いて各地点でのデータを収集する。得られた結果と先行研究で行われた大域的な予測を比較し、新たに定量的な予測を立てる。

 第二に流体力学を用いて,海流と海水温をもとに、ダイオウイカの移動経路・生息分布を定量的に予測する。現時点では海流の流れを計算して可視化することを目標としている。そのために流体の微視的な振る舞いを記述するボルツマン方程式と、巨視的に記述するナビエ・ストークス方程式とがどのように対応しているかについて調査を進めている。
ナビエ・ストークス方程式とは流体の基礎方程式である。ナビエ・ストークス方程式は解の存在が示されていないため数値シミュレーションを行って得られた数値解の正当性が確認できないが、今回のスケールにおいては離散化することで得られる差分方程式を用いれば十分だと考える。最終的にはこれらを用いて発見場所からダイオウイカが今後どのように移動するかを定量的に予測する。

 この研究を応用することで、ダイオウイカのみならず未だ生態がわかっていない生物の移動経路・生息分布のモデルの確立が可能になり、漁業や研究への利用に期待ができる。

引用:
[1]Extraordinary numbers of giant squid, Architeuthis dux, encountered in Japanese coastal waters of the Sea of Japan from January 2014 to March 2015