13:45 〜 14:00
[O06-01] 平成30年7月豪雨と猛暑:異常気象の連鎖と地球温暖化の影響
★招待講演
キーワード:平成30年7月豪雨、猛暑、異常気象、ジェット気流の蛇行、地球温暖化
2018年夏,我が国では豪雨,猛暑,台風と多くの気象災害が発生した。取り分け,7月上旬に起きた「平成30年7月豪雨」は,西日本を中心に広域で記録的な雨量となり,河川の氾濫や土砂崩れなどにより,犠牲者220名超の甚大な被害をもたらした。特に,7月5日から7日にかけては,普段比較的雨量の少ない瀬戸内地方を中心に48〜72時間降水量の記録を更新した地点が続出し,災害の甚大化につながった。この広域での持続的な豪雨は,過去最大級の多量の水蒸気を含む熱帯からの気流が西日本上空に流入し続けたために起きた。この要因は,東シナ海南部の低圧部の影響もあって,アジアモンスーンに伴う湿った西風が東方に流れ,平年より強い太平洋高気圧に伴う貿易風と合流して強い南寄りの気流を形成し,西日本に停滞した梅雨前線に流れ込み続けたことである。低圧部の積雲対流により水蒸気が対流圏中層にまで拡がったことや,強い南風が黒潮からの蒸発を促したことも雨量を増やす一因となった。
7月上旬の西日本豪雨の要因は,一連の「異常気象の連鎖」の中で捉えられるべきものである。6月下旬に欧州方面から伝播してきた強い波動(シルクロード・パターン)により上空の亜熱帯ジェット気流(熱帯気団と中緯度気団の境界を吹く)が異常に北上し,太平洋高気圧を異常発達させた。この影響で関東甲信地方の史上最早の梅雨明けと,梅雨前線の異常な北上による北海道での記録的豪雨がもたらされた。その後,太平洋高気圧の弱化につれ梅雨前線が南下する一方,日本の北方で亜寒帯ジェット気流(極域気団と中緯度気団の境界を吹く)も強く蛇行し,地表のオホーツク高気圧を異常発達させ,その北東気流が梅雨前線に伴う気温傾度を著しく強化した。その直後にシルクロード・パターン第二波に伴う亜熱帯ジェット気流の蛇行強化により太平洋高気圧が再強化されて梅雨前線の停滞と水蒸気流入の持続をもたらした一方,朝鮮半島上空で気圧の谷が深まって梅雨前線近傍の上昇流が強化されて西日本で積乱雲が発達した。
そしてシルクロード・パターン第三波により,7月10日頃には梅雨前線が西日本からも北上し,北陸以西で梅雨が明けた。豪雨期とは異なり,亜熱帯ジェット気流は朝鮮半島付近で最も北に蛇行したため,西日本での上昇気流が止み,持続的猛暑をもたらした。その後,第四波による高気圧と下降気流の強化の下で,熊谷で最高気温記録が更新され,月末の第五波に伴っても各地で記録的な暑さとなった。加えて,梅雨明け後は熱帯北西太平洋での活発な積雲対流活動の影響で太平洋高気圧が持続的に強化されていた。この「太平洋・日本(PJ)パターン」としての高気圧強化は,台風の発生が記録的に多かった8月も持続した。
2018年夏には北半球中高緯度の各地で異常気象が発生した。特に多かったのは異常高温である。もしシルクロード・パターンのような波動によるジェット気流の南北への蛇行のみが原因であれば,異常低温と異常高温が東西に交互に並んで発生するはずである。しかしながら実際に異常高温のみが目立っていたのは,北半球中緯度域で3月以来続く記録的な高温傾向である。これには,北太平洋・大西洋に拡がる暖水偏差の影響でジェット気流の北上傾向が続いたことも影響したと考えられる。
さらに,背景にある地球温暖化の寄与も決して無視できない。実際,我が国の夏季平均気温は過去30余年で約1℃上昇した.これに伴い,2003年以降顕著な冷夏は発生しておらず,近年では高温記録が頻繁に更新されるようになった。温暖化傾向とともに,下層の水蒸気量も過去30年で約10%増加し,大雨の強度もほぼ同じ割合で増大傾向にある。また,日本近海は全海洋平均よりも速いペースで温暖化が進んでおり,夏に熱帯からの暖湿気流が日本に流入するまでにその対流不安定性が維持されるようになったことも豪雨強度の増大の背景にある。同時に,台風も余り減衰せずに日本に接近する傾向にある。今後も温暖化の進行とともに,2018年夏のように,豪雨・猛暑・強い台風と,災害をもたらす異常気象が連鎖しやすくなる傾向が強まることが懸念される。
7月上旬の西日本豪雨の要因は,一連の「異常気象の連鎖」の中で捉えられるべきものである。6月下旬に欧州方面から伝播してきた強い波動(シルクロード・パターン)により上空の亜熱帯ジェット気流(熱帯気団と中緯度気団の境界を吹く)が異常に北上し,太平洋高気圧を異常発達させた。この影響で関東甲信地方の史上最早の梅雨明けと,梅雨前線の異常な北上による北海道での記録的豪雨がもたらされた。その後,太平洋高気圧の弱化につれ梅雨前線が南下する一方,日本の北方で亜寒帯ジェット気流(極域気団と中緯度気団の境界を吹く)も強く蛇行し,地表のオホーツク高気圧を異常発達させ,その北東気流が梅雨前線に伴う気温傾度を著しく強化した。その直後にシルクロード・パターン第二波に伴う亜熱帯ジェット気流の蛇行強化により太平洋高気圧が再強化されて梅雨前線の停滞と水蒸気流入の持続をもたらした一方,朝鮮半島上空で気圧の谷が深まって梅雨前線近傍の上昇流が強化されて西日本で積乱雲が発達した。
そしてシルクロード・パターン第三波により,7月10日頃には梅雨前線が西日本からも北上し,北陸以西で梅雨が明けた。豪雨期とは異なり,亜熱帯ジェット気流は朝鮮半島付近で最も北に蛇行したため,西日本での上昇気流が止み,持続的猛暑をもたらした。その後,第四波による高気圧と下降気流の強化の下で,熊谷で最高気温記録が更新され,月末の第五波に伴っても各地で記録的な暑さとなった。加えて,梅雨明け後は熱帯北西太平洋での活発な積雲対流活動の影響で太平洋高気圧が持続的に強化されていた。この「太平洋・日本(PJ)パターン」としての高気圧強化は,台風の発生が記録的に多かった8月も持続した。
2018年夏には北半球中高緯度の各地で異常気象が発生した。特に多かったのは異常高温である。もしシルクロード・パターンのような波動によるジェット気流の南北への蛇行のみが原因であれば,異常低温と異常高温が東西に交互に並んで発生するはずである。しかしながら実際に異常高温のみが目立っていたのは,北半球中緯度域で3月以来続く記録的な高温傾向である。これには,北太平洋・大西洋に拡がる暖水偏差の影響でジェット気流の北上傾向が続いたことも影響したと考えられる。
さらに,背景にある地球温暖化の寄与も決して無視できない。実際,我が国の夏季平均気温は過去30余年で約1℃上昇した.これに伴い,2003年以降顕著な冷夏は発生しておらず,近年では高温記録が頻繁に更新されるようになった。温暖化傾向とともに,下層の水蒸気量も過去30年で約10%増加し,大雨の強度もほぼ同じ割合で増大傾向にある。また,日本近海は全海洋平均よりも速いペースで温暖化が進んでおり,夏に熱帯からの暖湿気流が日本に流入するまでにその対流不安定性が維持されるようになったことも豪雨強度の増大の背景にある。同時に,台風も余り減衰せずに日本に接近する傾向にある。今後も温暖化の進行とともに,2018年夏のように,豪雨・猛暑・強い台風と,災害をもたらす異常気象が連鎖しやすくなる傾向が強まることが懸念される。