日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[O-06] 激甚化する風水害にどう対応するか

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 103 (1F)

コンビーナ:松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、和田 章(東京工業大学)、座長:和田 章(東京工業大学)、高橋 幸弘(北海道大学)

15:45 〜 16:00

[O06-08] 洪水から命と生活を守る建築の技術と知恵

★招待講演

*田村 和夫1 (1.建築都市耐震研究所)

キーワード:洪水、建築構造、災害対策、ピロティ、免震

狭い国土で急峻な地理的・地形的条件を抱える我が国には、河川の氾濫による浸水・冠水などの被害を受ける危険性の高い地域が全国に多く存在する。治水対策としてのダムや河川堤防整備によりこれらの被害は抑制されてきたが、一方で地域の水害に対する意識の低下につながり、災害リスクを高めてきたという側面もある。洪水に備えて、家のつくり方や暮らし方を工夫してきた我が国の歴史が忘れられてきている。海抜ゼロメートル地帯や、河川の水面より低位に地盤面が存在し、堤防が決壊した場合には甚大な被害を生じる地域も多い。このような状況下、近年気象現象が激化しており、長時間に及ぶ豪雨などにより、河川の決壊や氾濫が全国的に頻発している。

河川堤防の補強整備や遊水地などの整備により居住地の浸水被害を防止しようとする活動が進められてきているが、堤防による防護は、流域全体にわたり線上に切れ目なく確実に行う必要があり、今後さらに激化する気象現象に対し、このような対策だけでは限界がある。流域に建つ建築物側での対応策も活用し、流域全体を総合的にとらえて、個々の様々なタイプの激しい降雨現象に対して、それぞれの地域での安全性を確保する方法をとるべきである。地域住民としても、自らの命や生活を守るために、水害に対する最後の砦である建物や地域の安全確保に力を入れるべきである。

本講演では、主として河川氾濫に対する安全性確保に焦点を絞り、建築分野における災害対策に関する現状と、適用可能な技術について、事例を交えて解説する。

浸水時の対応として、情報伝達や建物内外の避難経路確保の問題、設備機器の配置の工夫による建物機能の維持などがあるが、建築物や敷地での対応策としては、浸水深さ以上の高さに居住域を確保する方法が一般的である。例えば、従来、盛り土により敷地をかさ上げすることはよく行われている。これは浸水対策としては有効であるが、盛り土の高さが高い場合には豪雨で流されない頑強な地盤構造にする必要がある。また、地震時には盛り土地盤により地震動が増幅される可能性があり、このことへの配慮が必要である。

また建築構造体としては、例えば木造建物の場合、背の高い頑丈な鉄筋コンクリート製基礎の上に建物を固定する方法がある。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合にも同様の考え方で、浸水を前提にした建築計画を採用することができる。また、1階部分を構造体の柱のみにしたピロティ建築を採用すると、河川堤防の近傍などでの氾濫流に対する抵抗力も減じることができ有効である。またさらに、ピロティ構造と免震を組み合わせて、1階柱の上に免震装置を設置してその上に建物を載せる構造方式は、耐震と水防を兼ね備えた構造として有効である。なお、このような構造は河川の氾濫に対してだけでなく、集中豪雨による市街地の内水氾濫に対しても有効である。
既存の市街地の建物全体を一気に変えることは難しいが、上記の対策を施した建物を、地域の避難や災害時対応のための拠点として整備するなどの対応はとれる。また、既存建物の更新時に、以上のような意識の下、災害対策を講じることで、次第に洪水に対する抵抗力の高い市街地をめざす姿勢が必要である。河川流域の治水を考える上でも、守るべき対象である建築物側でのこのような対応も考慮して、総合的な施策を進めていくことが望まれる。