[O06-P01] 平成30年7月豪雨災害で広域に発生した土砂災害箇所の衛星画像による自動抽出解析
キーワード:平成30年7月豪雨、土砂災害、衛星画像、自動抽出解析
1.はじめに
前線および台風7号の影響により発生した平成30年7月豪雨は,西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨をもたらした。この豪雨により,全国各地で河川の氾濫,浸水害,土砂災害等が発生し,死者,行方不明者が多数となる甚大な災害となった。広域における同時多発災害は,規模が大きいほど被害全容が捉えられなくなり,初期対応が遅れる可能性がある。我々は,早期に広範にわたる土砂災害箇所を把握すべく,広域撮影が可能な光学衛星画像を用いて自動抽出解析を試みたので、ここに報告する。
2.従来技術による対応と問題
大規模災害時には,被害状況把握のために上空からの空中写真撮影が有効であり,これまで多くの災害対応で実施されてきた。今回の災害においても土砂災害状況等を把握すべく,各種機関が災害撮影を実施した。国土地理院は7月9~19日に,広島県南部地区や愛媛県宇和島・大洲地区,山口県岩国地区などで空中(垂直)写真を撮影し,写真判読により崩壊地等分布図を作成している1)。株式会社パスコは,7月9~16日に光学衛星SPOT7により,広島県や岡山県,愛媛県等を撮影した。取得された画像を確認し,著しい被害集中が懸念される広島県呉市・坂町,愛媛県宇和島市域を対象に,土砂移動痕跡を判読して分布図を公表した2)。これらは撮影範囲あるいは判読対象範囲が限定され,また熟練した判読技術者による長い判読時間を要していることが,広域災害の早期対応においての問題として浮かび上がっている。
3.広域に発生した土砂災害箇所に対する自動抽出解析
SPOT光学衛星は,地上分解能1.5mと空中写真(分解能20cm)と比較して解像度は低いものの,一度の撮影幅60kmと広域撮影が可能であること,また多機運用でほぼ毎日撮影が可能であることを特長とする。今回撮影した岡山県,広島県,愛媛県の範囲11,400km2について,被害状況の迅速な把握を目的に,土砂災害箇所の自動抽出解析を試みた。解析手法は,リモートセンシングの画像解析でよく用いる最尤法による教師付クラス分類である。取得画像内にある複数の崩壊地を教師として画像全体をクラス分類し,土砂災害箇所の候補を抽出した。これらには平地部にある運動場等の裸地も包含されることが見られたため,国土数値情報の森林域データを重ねて市街地を除外し、土砂災害箇所としての絞り込みを行った。解析結果は,一見して災害全体像が理解できるように,1km標準メッシュごとに土砂災害箇所の面積占有率(密度)を求め,密度の高低により色分けした分布図として作成した。これらの解析処理時間は1日程度であり,人海戦術で判読するのに比べて短時間での報告が可能となった。一方,抽出された土砂災害箇所を個別にみると,比較的広い面積を持つ崩壊源頭部は概ね抽出されているが,土石流の流送区間などの狭い範囲に連なる部分などは,未抽出となった場所がみられた。また,既存崩壊地や伐採跡地なども同時に誤抽出されることが確認されており,密度分布図として被害全体像把握には活用できるものの,個別の災害情報としては解決すべき課題があることも分かった。
4.おわりに
西日本豪雨は,被災範囲が非常に広範囲となり,従来から実施している空中写真撮影のみでは全体をカバーできない状況に見舞われたが,広域撮影に適した光学衛星の撮影画像を用いることで,土砂災害の全体概要が把握できる可能性を示した。一方で,1.5m分解能の光学衛星では空中写真ほど鮮明な画像は得られず,土砂災害の詳細判読にどこまで利用できるのか,衛星画像情報での判別可否要件等の整理分析を今後実施予定である。また,今回用いた自動抽出解析手法では,誤抽出や未抽出箇所が多く発生しており,抽出精度の向上が望まれる。機械学習による画像解析技術が進歩している折であり,AIによる自動判読技術開発にも取り組んでいく。
参考文献
1) 国土地理院:ホームページhttp://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H30.taihuu7gou.html
2) 株式会社パスコ:ホームページhttps://www.pasco.co.jp/disaster_info/20180709/
前線および台風7号の影響により発生した平成30年7月豪雨は,西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨をもたらした。この豪雨により,全国各地で河川の氾濫,浸水害,土砂災害等が発生し,死者,行方不明者が多数となる甚大な災害となった。広域における同時多発災害は,規模が大きいほど被害全容が捉えられなくなり,初期対応が遅れる可能性がある。我々は,早期に広範にわたる土砂災害箇所を把握すべく,広域撮影が可能な光学衛星画像を用いて自動抽出解析を試みたので、ここに報告する。
2.従来技術による対応と問題
大規模災害時には,被害状況把握のために上空からの空中写真撮影が有効であり,これまで多くの災害対応で実施されてきた。今回の災害においても土砂災害状況等を把握すべく,各種機関が災害撮影を実施した。国土地理院は7月9~19日に,広島県南部地区や愛媛県宇和島・大洲地区,山口県岩国地区などで空中(垂直)写真を撮影し,写真判読により崩壊地等分布図を作成している1)。株式会社パスコは,7月9~16日に光学衛星SPOT7により,広島県や岡山県,愛媛県等を撮影した。取得された画像を確認し,著しい被害集中が懸念される広島県呉市・坂町,愛媛県宇和島市域を対象に,土砂移動痕跡を判読して分布図を公表した2)。これらは撮影範囲あるいは判読対象範囲が限定され,また熟練した判読技術者による長い判読時間を要していることが,広域災害の早期対応においての問題として浮かび上がっている。
3.広域に発生した土砂災害箇所に対する自動抽出解析
SPOT光学衛星は,地上分解能1.5mと空中写真(分解能20cm)と比較して解像度は低いものの,一度の撮影幅60kmと広域撮影が可能であること,また多機運用でほぼ毎日撮影が可能であることを特長とする。今回撮影した岡山県,広島県,愛媛県の範囲11,400km2について,被害状況の迅速な把握を目的に,土砂災害箇所の自動抽出解析を試みた。解析手法は,リモートセンシングの画像解析でよく用いる最尤法による教師付クラス分類である。取得画像内にある複数の崩壊地を教師として画像全体をクラス分類し,土砂災害箇所の候補を抽出した。これらには平地部にある運動場等の裸地も包含されることが見られたため,国土数値情報の森林域データを重ねて市街地を除外し、土砂災害箇所としての絞り込みを行った。解析結果は,一見して災害全体像が理解できるように,1km標準メッシュごとに土砂災害箇所の面積占有率(密度)を求め,密度の高低により色分けした分布図として作成した。これらの解析処理時間は1日程度であり,人海戦術で判読するのに比べて短時間での報告が可能となった。一方,抽出された土砂災害箇所を個別にみると,比較的広い面積を持つ崩壊源頭部は概ね抽出されているが,土石流の流送区間などの狭い範囲に連なる部分などは,未抽出となった場所がみられた。また,既存崩壊地や伐採跡地なども同時に誤抽出されることが確認されており,密度分布図として被害全体像把握には活用できるものの,個別の災害情報としては解決すべき課題があることも分かった。
4.おわりに
西日本豪雨は,被災範囲が非常に広範囲となり,従来から実施している空中写真撮影のみでは全体をカバーできない状況に見舞われたが,広域撮影に適した光学衛星の撮影画像を用いることで,土砂災害の全体概要が把握できる可能性を示した。一方で,1.5m分解能の光学衛星では空中写真ほど鮮明な画像は得られず,土砂災害の詳細判読にどこまで利用できるのか,衛星画像情報での判別可否要件等の整理分析を今後実施予定である。また,今回用いた自動抽出解析手法では,誤抽出や未抽出箇所が多く発生しており,抽出精度の向上が望まれる。機械学習による画像解析技術が進歩している折であり,AIによる自動判読技術開発にも取り組んでいく。
参考文献
1) 国土地理院:ホームページhttp://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H30.taihuu7gou.html
2) 株式会社パスコ:ホームページhttps://www.pasco.co.jp/disaster_info/20180709/