日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-08] ジオパークで地球活動をイメージする -ジオ多様性の大切さを知ろう-

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡ジオパーク推進協議会)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、大野 希一(島原半島ジオパーク協議会事務局)

[O08-P34] サイトに設置されている解説看板の評価-島原半島ユネスコ世界ジオパークのサイト「土石流被災家屋保存公園」の例―

太田 千愛1森北 詩音1鬼塚 空夢1森田 達也1大嶋 健心1栗田 悠衣1河添 未夕1東内 敏紀2大窄 紘章2、*大野 希一3 (1.長崎県立口加高等学校グローカルコース、2.長崎県立口加高等学校、3.島原半島ジオパーク協議会事務局)

キーワード:島原半島ユネスコ世界ジオパーク、ジオパーク、土石流被災家屋保存公園、解説看板、評価

はじめに
 地形や地質学に関する専門知識を持たない一般の人や土地勘のない観光客に、ジオパークのサイトの価値を正しく伝え、観光客にジオパークそのものを楽しんでもらうためには、正しくてわかりやすい解説看板(以下、看板)をサイトに設置することが必要不可欠となる。言い換えれば、ジオパークのサイトに設置されている看板は、サイトの価値を地域住民や観光客に伝えるための情報発信ツールである。しかしながら、サイトに設置した看板は、その作成に大変な労力と費用を要するにも関わらず、そこに記述された事柄が、看板閲覧者にどの程度正しく、かつ分かりやすく伝わっているのかを客観的に分析した事例はまだない。そこで我々は、島原半島ユネスコ世界ジオパークの主なサイトのひとつである「土石流被災家屋保存公園」に設置されている看板を例に、既存看板を閲覧した方を対象にヒアリング調査を行った。そしてその結果を踏まえて、デザインや内容を修正した看板を再設置し、閲覧者の看板に対する印象の変化を通じて、サイトにおける解説看板の評価を行った。

手法
 今回調査地点としたサイト「土石流被災家屋保存公園」は、1990年から1995年にかけて雲仙火山で発生した平成噴火のうち、1992年8月に発生した土石流によって被災した家屋群を被災当時の姿で保存した公園で、噴火災害の伝承に加え、火山噴火で発生した土石流堆積物の特徴が観察できるという価値を持つ。またこの公園は、道の駅「みずなし本陣ふかえ」の中に位置しているため、観光客数も多く、看板閲覧者に対するヒアリングをしやすい、という利点もある。解析対象とした看板は、2011年3月に島原半島ジオパーク推進連絡協議会(当時の名称)が設置したもので、島原半島世界ジオパークの看板としては比較的初期に建てられたものである。
 この既存看板を対象に、2018年8月10日および9月16日に、ビデオカメラを用いて、どのくらいの来訪者がどのくらいの時間看板を見ているのかを調査した。また看板閲覧者に直接ヒアリングを行い、性別、年代、発地に加え、看板の印象(文字数・文字サイズ・写真・説明文の内容)を6段階で評価していただいた。そしてこの評価結果をもとに作成した修正看板を、同年10月14日に設置し、修正看板の閲覧者に対して同様の調査を行った。そしてそれらの結果の比較を通じて、看板全体の質がどのように変化したかとその要因を分析した。

結果
 既存看板を閲覧した人の数は、調査人数250名中52名(約21%)、閲覧平均時間は約22秒で、最も長く閲覧した人は63秒であった。これに対し、修正看板は、調査人数204名中34名(約17%)が閲覧した。閲覧平均時間は約17秒、最も長く閲覧した人は62秒で、既存看板のそれより全体的に短くなった。
 看板閲覧者の看板に対する印象を、6を最高に6段階で評価して頂いたところ、既存看板については全体印象が4.7、説明文は4.6、写真については4.6となった。これに対し、修正看板は、全体印象は4.6、説明文は4.8、写真については4.7となり、修正看板の方が既存看板に比べて説明文や写真の見やすさに対する評価が若干高くなった一方で、全体の印象は若干下がる、という結果になった。
 文字数・文字サイズについては、3.5を文字数および文字サイズの最適値とし、文字数やサイズが多すぎたり大きすぎたりした場合を6、少なすぎたり小さすぎたりした場合を1として、閲覧者に評価していただいた。その結果、既存看板については、文字数の評価は4.1、文字サイズは3.7であったが、修正看板は文字数の評価が4.0、文字サイズは4.0となり、文字数は評価が若干上がった一方で、文字サイズに関する評価は下がる、という結果になった。

考察
 既存看板に対する閲覧者の意見は、「文字数が多い」「どこから読み始めればよいかわからない」というものが多かった。そこで修正看板は敢えて文字数を減らし、写真を大きくするデザインとした。その結果、修正看板は既存看板に比べて「わかりやすくなった」という意見の閲覧者が増加した。説明文の評価が向上したにも関わらず、修正看板の閲覧時間が既存看板に比べて短くなったのは、文字数の減少に伴い、閲覧者が短時間で看板を見終えたためと考えられる。一方で、看板の文字数を減らしすぎると、サイトの持つ意義や価値を看板閲覧者に十分に伝えきれなくなる可能性が出てくる。看板の全体印象の低下は、そのデザインに加え、文字数を減らしたことにより、看板そのものが提供する情報が減少した事に起因した可能性がある。

今後の展望
 ジオパークのサイトは、伝えるべき何らかの学術的価値を必ず有している。その価値を正しく、分かりやすく伝えることができる看板が、優れた看板であると言える。しかし今回は、サイトが有する価値やこのサイトを訪問する来訪者の背景やニーズを詳しく検討することなく、その内容及びデザインの変更を行っており、改善の余地がある。今後は、土石流被災家屋保存公園を訪れる訪問者のニーズと、このサイトが伝えるべき学術的価値を把握したうえで、看板のデザインや内容をさらに改良し、よりよい看板の作成に向けた調査を継続していく予定である。